top 本と展示写真集紹介『「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容』  瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄  

『「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容』  瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄

2023/06/12

『「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容』(赤々舎刊)は同名展覧会の図録である。千葉私立美術館から始まり、富山県立美術館、新潟市立美術館、渋谷区松濤美術館と巡回する。この展示で主に取り上げているには瀧口修造、阿部展也、大辻清司、牛腸茂雄である。図録でもこの4人の活動を中心に紹介している。
 
タイトルにあるように「前衛」が本書(展示)の中心軸になっている。そのため瀧口修造が最初に紹介されるのは当然の流れであるといえよう。周知の通り瀧口はモダニズム系の詩人であり、美術や文学の評論なども執筆してきた。その文脈でウジェーヌ・アジェの写真を紹介し読み解いているが、本書はここから始まる。
 
アジェの撮る人気のないパリの写真から「一種の物のけ」を感じた瀧口は、ストレートな光景の中から超越した現実を見出した。つまりシュルレアリズムの本質を直観的に見抜いた。瀧口のこの気付きは批評家というより、詩人的な発想力がアジェの写真に迫ったという気がする。
 
阿部展也は瀧口修造ともに詩画集『妖精の距離』を制作し、阿部が絵を担当している。その後同時代の美術家が手掛けたオブジェなどを撮影し、写真も実作している。同時に彼もまた評論を書き、イメージの理論化を試みている。
 
大辻清司は戦後、阿部から高い評価を得て、ともに作品を作るようになる。女性のモデルを中心にして空間構成をした〈オブジェ〉は、阿部の演出を大辻が撮影したものである。阿部のコラボレーターが詩人から写真家へ移行したところも興味深い。
 
大辻はその後桑沢デザイン研究所で教える立場となる。その流れであろう彼もまた評論を書くようになるが、大辻の場合は写真に即した思考を理論化している。美術と写真の狭間が大辻を通すことで見えてくる。
 
そして、大辻の教え子として牛腸茂雄が登場する。元々リビングデザイン専攻だった牛腸だが、彼の撮る写真に反応した大辻は写真研究科へ進むよう推薦する。
 
牛腸が学生時代に制作した写真が本書に掲載されているのが興味深い。彼の造形能力、空間をとらえる物の見方が顕著に出て、素質が垣間見える。
 
この4人のうち、牛腸を除く3人は批評家としても活動していることに目がいく。イメージをどのように言語化し、理論化することでその行為を検証するか、実作者が批評していたことは注目に値する。だが牛腸になると、理論化よりも実作行為を行うことでイメージを掘り下げているように感じられるが、牛腸は36歳という若さで亡くなっているため、彼をどう評価するかは難しいところだ。
 
大辻と牛腸の間で高梨豊が紹介されているが、大辻の門下生は他にも多い。個人的に注目したいのは新倉孝雄である。彼も桑沢で大辻、石元泰博から学んだが、卒業制作で提出した練習中のボクサーの姿を捉えた写真は理解を得られなかったという。唯一大辻だけが新倉の写真を評価した。1962年のことである。その後新倉は休日の街をスナップし、何気ない日常を対象に撮り続けた。ちなみにこの頃、牛腸は新倉の写真に興味を持ち、二人を引き合わせたのは大辻であった。
 
瀧口修造を通過してアジェの写真から始まり、牛腸の『見慣れた街の中で』で締めくくられるが、間に新倉孝雄の写真を挟むと、より「なんでもないものの変容」の検証が深まるような気がすると、個人的には思う。

 

  • 『「前衛」写真の精神:なんでもないものの変容』 
  • 瀧口修造・阿部展也・大辻清司・牛腸茂雄     
  • 発行:赤々舎 
  • 刊行:2023年5月
  • 判型:255mm×180mm・240ページ・ソフトカバー
  • ブックデザイン:須山悠里
  • 価格:2,700円(税別)
  • http://www.akaaka.com/publishing/Avant-Garde-Photography.html

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