top スペシャルレポート世界最大規模のIT家電見本市「CES 2023」リポート@米国ラスベガス【後編】

世界最大規模のIT家電見本市「CES 2023」リポート@米国ラスベガス【後編】

2023/01/22
会田 肇

映像技術を生かした派生ビジネスモデルを模索するカメラメーカーの現在地

 

CES2023ではメインとなる家電メーカー。そこでも多くの出展がありました。シャープはプライベートルームでの展開となりましたが、パナソニックをはじめ、韓国のサムスン、LG、中国のハイセンス、TCLなどがラスベガスコンベンションセンター(LVCC)のセントラルホールに軒を連ねるのは、もはや恒例となった感があります。中でもLGがCESで展開するド迫力のゲートは今年も展開され、来場者を驚かせていました。
 


LGブース入口には恒例となった、波打つような大型ディスプレイに誰もが度肝を抜かれる。


そうした中でやはりカメラ系の一番の関心はキヤノンやニコンの存在でしょう。両社ともに独自の演出でブースを展開していました。
 
キヤノンは「リミットレス・イズ・モア」をコンセプトとして、人々が直面する様々な制限を取り除く、新製品や最先端のxR映像ソリューションを披露しました。プレスカンファレンスには、映画「シックスセンス」で知られる映画監督M・ナイト・シャマラン氏が登壇し、新作映画をモチーフにした没入型の展示にも協力しているとのことでした。
 
 

キヤノンがテーマとしたコンセプトは「LIMTLESS IS MORE」。人々を制限から取り除く最先端技術を披露した。


その没入型の展示を活かした出展が、仮想空間で利用者の姿を再現して会話する仮想現実(VR)アプリ「kokomo(ココモ)」です。これは、VR端末とスマートフォンを介して、利用者の映像を3次元(3D)で再現し、遠くの相手でも目の前にいるような感覚で会話ができるようにしたというもの。1年前のCES2022で試作を披露したそうですが、今年はその完成度を高め、ようやく実用化の目処が立ったということです。
 

 
映画「シックスセンス」のM・ナイト・シャマラン監督が、没入感のある「kokomo」ブース設営に加わった。


これまでも、VR端末を使って遠隔地の状況を見ながらやり取りできるアプリは数多く提供されてきましたが、VR端末を装着している状況でしか互いを確認することはできませんでした。「kokomo」では、あらかじめスマホで自分の顔をスキャンすることで表情に合わせた描写ができるようにしたのがポイントとなります。
 


キヤノンのブースでは、「kokomo」と「AMLOS」の体験コーナーを用意して人気を呼んでいた。


実際に試させていただいたところ、確かにVR端末の部分に顔がはめ込んだ形で描かれています。顔を横に向けたりすると若干のずれが発生していましたが、それでもVR端末越しよりもはるかにコミュニケーションが取りやすいと感じました。キヤノンUSAでは、今年の夏頃には米国でサービスをスタートさせる計画で、基本料金は無料で提供し、そこに利用シーンに応じた定額での課金も想定しているとのことでした。
 


「kokomo」を体験すると、その没入感からまるでその場にいるような感覚になり、思わず身振り手振りが生まれる。


もう一つの出展がウェブ会議ソリューション「AMLOS(アムロス)」で、同社の画像処理技術を利用したハイブリットミーティング向けのソフトウェアソリューションとなります。このソフトウェアを使った会議では、職場側の話し手がジェスチャーによってカメラの向きやフォーカスを自在にコントロールでき、必要に応じて4K映像からズームアップも可能となります。一方で、リモート勤務側は、ブラウザベースで見たい画面をシンプルで直観的なUI(ユーザーインターフェース)でカスタマイズして見ることができます。
 


「AMLOS」でウェブ会議した一例。斜めの資料も自動的に補正して見やすくする(右上)機能も備える。


驚くのは、カメラの位置では斜めにしか映らない資料でも、それを補正して普通に見られるようにすることです。しかも、このソフトウェアはマイクロソフトの「チームズ(Teams)」と連携しているそうで、今後はほかのビデオ会議ツールにも拡張することを予定しているとのこと。開発担当者によれば「今までのウェブ会議では、カメラの映像が一定であるために、リモートでの参加者は何となく疎外感を感じざるを得なかった。それをリアルで参加した人と同じレベルで会議を共有できるようにするのが目的だった」と話していました。
 
なお、このソフトウェアは「CESイノベーションアワード」において、最優秀賞に当たるベスト・オブ・イノベーションを受賞しています。
 
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ニコンが「CES2023」で掲げたのは、中期経営計画(2022~2025年度)の下、2030年のありたい姿として思い描く未来を紹介しました。
 
一つは産業向けの事業として「リブレット加工」技術の紹介です。これは、サメの肌にヒントを得たもので、レーザーで素材の表面に微細な溝の加工を施すことで素材の摩擦係数を低減することができるのが特徴です。ニコンは、半導体露光装置の開発で培った技術の転用によってリブレット加工にも強みを持っており、この技術を航空機や風力発電のブレード、タービンなどに活用することで燃費や発電効率、CO2排出量の削減に貢献できるというわけです。
 
ニコンのブースでは、このリブレット加工の特徴を示すために、海の沖に建てられた風力発電のブレードに対して、ロボットやドローンを使って遠隔操作で施すイメージを紹介していました。ニコンによれば海の沖でのブレード加工は危険が伴うため、今後はドローンやロボットによる活用が期待できるということです。
 


ニコンでは、沖に建てられた風力発電のブレードに対し、ロボットやドローンを使って遠隔操作するイメージを紹介。


クリエイター向けの展示としては、映像機器のロボット制御ソリューションとしてハイスピード・ロボットアームを使った撮影デモが目を引きました。このロボットアームは、可動範囲が広く柔軟に撮影ができる「BOLT TM X」を使用し、カメラを載せるアームの長さは世界最長。これにより、クリエイターは時間、季節、場所にとらわれることなく、あらゆる背景で撮影でき、テレビや映画、広告等の撮影での活用が期待できるということです。
 


ニコンは、映像機器のロボット制御ソリューションとしてハイスピード・ロボットアームを使った撮影デモを紹介。


また、ミラーレスカメラ用の大口径中望遠単焦点レンズ「NIKKOR Z 85mm f/1.2 S」、および薄型広角単焦点レンズ「NIKKOR Z 26mm f/2.8」の開発試作品を出展しました。NIKKOR Z 85mm f/1.2 Sは、“S-Line” に属するレンズで、「高い解像力と美しく大きいボケを両立」していることが特徴。NIKKOR Z 26mm f/2.8については、「圧倒的な薄さと軽さを持ちながら高画質を実現した」単焦点レンズになります。両モデルとも開発中の製品であったため、これ以上の詳細なスペックは不明。展示品には「COMING SOON」とあるだけで、残念ながら体験することも叶いませんでした。
 


大口径中望遠単焦点レンズ「NIKKOR Z 85mm f/1.2 S」(左)、薄型広角単焦点レンズ「NIKKOR Z 26mm f/2.8」。
 

 

パナソニックがCES2023で発表したのは、フルサイズミラーレスカメラ「LUMIX Sシリーズ」の新製品「LUMIX S5Ⅱ」と「同X」です。撮像素子、画像エンジンをはじめ、ボディデザインを一新して、オートフォーカスの高速化と強力な手ぶれ補正を実現したことが最大のポイントです。「LUMIX S5Ⅱ」は、撮像素子からエンジン、ボディデザインまで完全に新規で設計されており、パナソニックでは上位機種を超える“最強のLUMIXフルサイズカメラ”としています。
 


パナソニックが出展したフルサイズミラーレスカメラ「LUMIX Sシリーズ」の新製品「LUMIX S5Ⅱ」。


ソニーは特に新製品の発表はありませんが、トップクリエイターから未来のクリエイターまで多様なコミュニティに対して様々な制作活動をサポートしていることを紹介しました。ブースにはデジタルシネマカメラ『VENICE 2』を含む映像制作用カメラ製品シリーズCinema Line(シネマライン)やフルサイズミラーレスカメラαシリーズ、VLOGCAMシリーズに加え、プロフェッショナル向けドローン「Airpeak」やクラウド制作プラットフォーム「Creators' Cloud」など、豊富な映像制作ソリューションを出展。また、プロフェッショナルや一般クリエイター向けマイクロホンやヘッドホンによる、高品質なサウンドコンテンツ制作も提案していました。
 


ソニーが出展したクリエイター向けデジタルシネマカメラ『VENICE 2』。

 

 

  • ■「CES 2023」概要
    会期:2023年1月5日〜8日 (現地・オンライン同時開催)
    会場:ラスベガスコンベンションセンター(LVCC、Venetian Expoなど)
    URL:https://www.ces.tech
    [主催]CTA(Consumer Technology Association)
     来年のCES 2024は、2024年1月9日〜12日を予定

 

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