森山大道『1980年代 余話』(蒼穹舎刊)は、名編として語られ続けるであろう作品だ。
森山のキャリアにおいて1980年代はあまり注目されていない印象がある。60年代、過激な時代背景をもってアレブレという衝撃的なイメージで登場し、その余波を受けて1970年代の作品と活動はカリスマ性をもって今でも度々取り上げられる。
しかし1970年代後半から80年代にかけて、いわゆるスランプ期に陥るが、その頃に撮られた写真も停滞していたかのように見られる傾向にある。1982年に発表された『光と影』によって森山大道は復帰し、1994年の『hysteric No.4』によって大きく飛躍、評価が拡大したというのが大方の見方ではないだろうか。
その間、1987年に蒼穹舎から『仲治への旅』が刊行された。見落とされがちだが、『仲治への旅』は森山大道を検証するにあたり、重要な位置にある。『hysteric No.4』を制作した当時『hysteric』シリーズのディレクターは、『写真よ、さようなら』『光と影』とともに『仲治への旅』を手にして森山大道を発見し、写真集制作を打診した経緯があると聞いたことがある。
『1980年代 余話』は80年代の写真を中心に構成されている。森山の叙情性と叙事性がせめぎ合っている写真は過渡期とも受け取れるが、今見ると森山の資質が顕著にあわられているようにも感じられる。そこには編集を担った大田通貴の解釈が反映しているといえよう。
巻末に大田自身による後記が記載されている。事実を淡々と記したその文章は研ぎ澄まされていて、まるで岩上素白の文体を思わせる。同時に、本書が編集という実践を経た森山大道に対する優れた批評になっている。
- 価格:3,800円+税
発行:2022年6月17日- 300部 A4変型 上製本
カラー78ページ 作品71点
編集:大田通貴
装幀:加藤勝也
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