いつも、違うテーマを同時期に重層的に手がけています。一つのテーマが終わって次のテーマに移るという方法を取るとそこまで多作にはならないと思いますが、一つのテーマに関わる期間が細く長くなるので、結果的に多作になるということでしょうか。
©️土田ヒロミ
1980年代、横浜に住んでいたので、京浜工業地帯の工場の造形に惹かれて撮り始めました。次第に工場の中に入って撮りたいという思いが強くなっていきましたが、個人でやるには限界がある。それで、『アサヒカメラ』の協力を得て、許可を取りながら撮らせていただきました。
工場を撮り始めて間もないころですが、おりしもバブル真っ盛りで、大都市の周辺の国道沿い、ロードサイドショップの風景がキッチュでフェイクになっていったのが面白いと感じていました。これらは「産業考古学」の“生産”というキーワードに対して“消費”という対置される位置付けのものです。それで、並行して撮り始めるようになりました。
いままで、これらの工場の写真は本格的に発表したことがないシリーズでした。撮っている最中から対立するものという意識で向かい合っていましたが、展示会場にこうして二つのシリーズを単純にコラージュする構成がうまくいくのだろうかという心配はありました。結果的にあまり違和感なく、写真に詳しくない方でもおもしろがってくれているようです。今回の展示は、空間体験というものを大切に空間を作ろうと思って構成しました。
タイトルはだいぶ長く考えました。最初の案は「筋肉と脂肪」(笑)。 ただ、健康志向の高い現代の一般認識として筋肉は善、脂肪は悪と捉えられていまする。そうすると、生産が善で消費が悪と、二項対立的に捉えられてしまったら、それは本意ではありません。人間も筋肉を作ると同時に脂肪を燃やして生きているのだから、むしろそれらは円環の関係です。その相互円環性を考えているうちに、以前から気になっていたウロボロスの存在に行き着きました。自分の尻尾を咥えるウロボロスの姿はどこか自己矛盾を抱え、行方定まらずというふうに見えませんか? その姿に日本の行く末を重ねて、このタイトルにしました。(後編へ続く)
PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。