top スペシャルインタビュー土田ヒロミ写真展「ウロボロスのゆくえ」インタビュー(前編)

土田ヒロミ写真展「ウロボロスのゆくえ」インタビュー(前編)

2021/12/30
打林 俊赤城耕一
著者近影/会場写真:赤城耕一
東京・品川のキヤノンギャラリーSにて、写真展「ウロボロスのゆくえ」を開催中(11月29日~2022年1月17日)の写真家・土田ヒロミさんに、今回の作品制作についてインタビューを行なった。

 

会場に「土田ヒロミ全作品」という、これまでに手がけられてきた作品の年表が掲出されていますが、これを見るとあらためて、土田さんって多作で、「観念」と「記録」のあいだを絶え間なく往還してきたという印象を持ちます。それについて、ご自身ではどうお考えになっていますか?

 

いつも、違うテーマを同時期に重層的に手がけています。一つのテーマが終わって次のテーマに移るという方法を取るとそこまで多作にはならないと思いますが、一つのテーマに関わる期間が細く長くなるので、結果的に多作になるということでしょうか。

 

©️土田ヒロミ

今回の展覧会に出品されているシリーズのうちの一つ、「産業考古学」を始められた経緯について教えていただけますか?

 

1980年代、横浜に住んでいたので、京浜工業地帯の工場の造形に惹かれて撮り始めました。次第に工場の中に入って撮りたいという思いが強くなっていきましたが、個人でやるには限界がある。それで、『アサヒカメラ』の協力を得て、許可を取りながら撮らせていただきました。

 

今でこそ“工場萌え”などということばもあるくらい、見るにしろ撮るにしろ魅力的なモチーフと捉えられていますが、80年代にいち早くそうした被写体に目をつけられて、それと並行して、今回展示のもう一つのテーマ「Fake Scape」も手がけていらっしゃったということです。

 

工場を撮り始めて間もないころですが、おりしもバブル真っ盛りで、大都市の周辺の国道沿い、ロードサイドショップの風景がキッチュでフェイクになっていったのが面白いと感じていました。これらは「産業考古学」の“生産”というキーワードに対して“消費”という対置される位置付けのものです。それで、並行して撮り始めるようになりました。

 

「消費と生産」が今回の展覧会のキーワードになっているわけですが、会場構成も圧巻ですね。

 

いままで、これらの工場の写真は本格的に発表したことがないシリーズでした。撮っている最中から対立するものという意識で向かい合っていましたが、展示会場にこうして二つのシリーズを単純にコラージュする構成がうまくいくのだろうかという心配はありました。結果的にあまり違和感なく、写真に詳しくない方でもおもしろがってくれているようです。今回の展示は、空間体験というものを大切に空間を作ろうと思って構成しました。

 

そして、展覧会タイトルを「ウロボロスのゆくえ」とされていますが、ウロボロスというと一般的には自分の尻尾を咥える円環状の蛇として表され、永遠、あるいは終わりなきものの象徴とされていますが、このタイトルにされた理由はなんだったのでしょうか?

 

タイトルはだいぶ長く考えました。最初の案は「筋肉と脂肪」(笑)。 ただ、健康志向の高い現代の一般認識として筋肉は善、脂肪は悪と捉えられていまする。そうすると、生産が善で消費が悪と、二項対立的に捉えられてしまったら、それは本意ではありません。人間も筋肉を作ると同時に脂肪を燃やして生きているのだから、むしろそれらは円環の関係です。その相互円環性を考えているうちに、以前から気になっていたウロボロスの存在に行き着きました。自分の尻尾を咥えるウロボロスの姿はどこか自己矛盾を抱え、行方定まらずというふうに見えませんか? その姿に日本の行く末を重ねて、このタイトルにしました。(後編へ続く)

 

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