髙橋実希「あの庭の花/Specimens」©Miki Takahashi
東京神宮前のLAGで髙橋実希「あの庭の花/Specimens」が開催される。
本展は、2024年に塩竈フォトフェスティバル・ポートフォリオレビュー写真賞で大賞を受賞した髙橋による初の写真集『あの庭の花』(印刷:Live Art Books)の出版記念展覧会となる。
髙橋は、自身の生家の庭と、そこに深く関わってきた祖父の存在を起点に、風景に染み込んだ人の営みや感情の痕跡を見つめてきた。祖父が手を入れ続けた庭のかたちや、家の木目に残る手の記憶は、時間とともに変化しながら、いま目の前の風景の中へと姿を変えていく。庭の草木や家の木材の質感、そこに射し込む光の陰影といった日常の断片を採集し、印画紙の上で重ね合わせるようにして、髙橋は過去と現在、記憶と風景を結び直すように写真を構築する。
そこに写る像は、出来事を記録するものではなく、過ぎ去った時間の層を不確かな姿で留めた痕跡のようでもある。曖昧な像の揺らぎのなかに、家という空間に刻まれた感情の残響や、失われたものの気配が微かに立ち上がる。その揺らぎを通して、写真が“見る”という行為を越え、心や身体の奥に沈む記憶へと触れるための方法であり得ることが示されている。
■Artist Statement
生まれ育った家には、大きな庭がある。
その庭を探検することが好きだった。
けれど、そこにはいつも、近づきがたい祖父がいた。
大きな脚立を使って松の枝をいじっていたり、
地面にしゃがみ込んでなにかをしていた。
幼い私は、見つからないように、
目を合わせないように、そっと庭を歩く。
季節ごとに花が咲き、枝が伸び、葉が落ちる。
当時はそれをただ季節の移ろいとして眺めていた。
けれど、庭の変化は決して自然だけのものではなかった。
日々の草取りや枝の剪定、石や植物の配置。
庭をかたちづくっていたのは、祖父の意思と手だった。
家の建て替えが決まったとき、祖父は庭の松を切った。
立派で、 祖父がとりわけ大切にしていたと思っていた
松だったが、気づいたときにはすでに切り終えようと
しているところだった。
思えば、 祖父は家そのもののような人だった。
庭の草花や廊下の木目にも、気配が微かに滲んでいる。
記憶が少しずつ書き換えられていくように、
庭も家も静かに姿を変える。
家族の生活が積み重なり、庭の様相は更新され、
廊下の木目は濃くなっていく。
変化は目に見えない蓄積となって刻まれていく。
その輪郭をそっとなぞるように、
私はいまもあの庭を見つめている。
髙橋 実希
- ■展覧会情報
髙橋実希「あの庭の花/Specimens」
会期:2025月10日24日(金)〜11月15日(土)
時間:13:00〜19:00
休廊日:日曜日、月曜日、祝日
会場:LAG
住所:東京都渋谷区神宮前2-4-11 Daiwa神宮前ビル1F
■トークイベント
登壇者:伊藤貴弘(東京都写真美術館学芸員)、髙橋実希
日時:2025年11月8日(土)15:00〜16:00
会場:LAG(LIVE ART GALLERY)
料金:無料
事前予約制:
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSchzeNcoz5nWZ3S44eSWCjVU5xWVYkGUn2NJQRVltVpAtwobA/viewform
定員:40名
■写真集案内
髙橋実希『あの庭の花』
発売日:2025年10月24日(金)
発行:塩竈フォトフェスティバル
仕様:薄上製A4 変型(220mm×270mm)
寄稿:久後香純(美術史研究者)
デザイン:橋詰冬樹
編集:菊田樹子
翻訳:パメラ三木
印刷/製本:株式会社ライブアートブックス
本体価格:3,800円(税別)
■プロフィール
髙橋 実希(たかはし・みき)
1996年静岡県生まれ。2019年に東京工芸大学芸術学部写真学科を卒業し、現在は東京を拠点に活動している。人の無意識や記憶を主題に、写真やコラージュによる作品を制作。2024年、塩竈フォトフェスティバル・ポートフォリオレビュー写真賞にて大賞を受賞。

【関連リンク】
https://www.live-art-books.jp/lag/exhibition/mikitakahashi/
| 出展者 | 髙橋実希 |
|---|---|
| 会期 | 2025月10日24日(金)〜11月15日(土) |
| 会場名 | LAG(LIVE ART GALLERY) |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。


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