2025年8月11日締め切りののち、OM SYSTEM PLAZAにて、写真家中藤毅彦氏、宇井眞紀子氏の両審査員によりLimelight 2025の審査が行われた。Under40部門/Under30部門それぞれ最終選考に残った作品の中からグランプリが決定。審査結果を発表する。
■目次
Limelight 2025 審査結果
▼Under40部門 グランプリ
吉田 祥平 『SLEEP, EAT, THINK』
◇最終選考ノミネート作品(50音順) ※印 次点
▼Under30部門 グランプリ
小西 弘晃 『City of Whispers』
◇最終選考ノミネート作品(50音順) ※印 次点
▼最終選考ノミネート作品講評
U40部門 最終選考ノミネート作品講評
・川嶋 久人 『ウクライナの肖像』 ※次点
Limelight 2025 審査結果
▼Under40部門 グランプリ
吉田 祥平 『SLEEP, EAT, THINK』
◆講評
◇中藤毅彦審査員
吉田さんの、オランウータンという生き物に対する愛情深い気持ちと思い入れが、まず大きいですよね。
彼らが暮らすジャングルに何度も通い詰めて、撮り続けて――。
以前も応募されていたし、その後のポートフォリオレビューでも拝見していますが、作品に厚みがついて、あとは深みというか、完成度がどんどん高まって、以前から素晴らしいと思っていたのですけど、今回「その時が来たかな」と思って選びました。
やっぱり美しい写真ですし、オランウータンという生き物自体がとても深みがある生き物で、なんか「人間ってなんだろうな」というか、人類よりも実はオランウータンたちの方が深いこと考えているんじゃないかなと思わせるような・・・。表情だったり、親子の愛情も映っていて、子供のオランウータンのとても純粋な可愛らしさだったり、あと森の光や、ジャングルの美しさも捉えられていて、これが展示空間でどういう展覧会になるか、とても楽しみですね。文句なしの作品だと思います。
◇宇井眞紀子審査員
まずやっぱり、オランウータンへの愛情のようなものが凄く感じられますし、オランウータンの世界自体が平和と愛に満ちているんじゃないかなと感じさせる、そういう作品群だったと思います。
タイトルが『SLEEP, EAT, THINK』って、なんか生きていることそのものが素晴らしいというか、寝て、食べて、でも何か考えて――。
本当に、作品を見ると「考えているんじゃないかな」と凄く感じさせられます。それも人間みたいな欲とか、馬鹿な考えではなくて、何か平和的に考えているんじゃないかなという素晴らしさみたいなものが作品に凄く映っていたのでそこにやっぱりグッときました。
そして、ポートフォリオレビューでも拝見したのですが、そこからもまたブラッシュアップしていると感じ、ぜひ写真展で拝見したいなと思い、選ばせていただきました。
◇最終選考ノミネート作品(50音順) ※印 次点
・射手園 芽 『シコロサンゴと生きる』
・川嶋 久人 『ウクライナの肖像』 ※
・きくち あみ『もくもく』
・和栗 伊留加 『南国のシカ 日本最南限に生きるケラマジカの初夏』
■Under30部門 グランプリ
小西 弘晃 『City of Whispers』
◇中藤毅彦審査員
特に変わったテクニックを駆使しているわけではないんですけど、日常の中に非日常の異界のようなものを見出して、それを映像化する感性を持っているんだなと思いました。見ているうちに、この世と黄泉の国の境の奇妙なエアポケットみたいな所に入り込むような感じもあり、はっと気づくと普通の街の見慣れた都市風景に戻るような、そういう不思議な狭間のようなものを作り出す感性をもっている気がしましたね。
(過去に)ご縁があって初個展に関わって作品を見てきたんですけれど、そんなにまだ時間が経っていないのに、成長著しいというか、どんどん進化しているなというところも評価したいですね。
◇宇井眞紀子審査員
物凄く特別な現像をしているなどではなく、パっと街の中で撮っているんですけれども、本当に異界というか「特別な状況」を見せてくれている。
切り取り方だったり、もちろん光だったりもそうなんですけど、作者が何を感じたのかをちょっとこちらも一緒に感じることができるなって思えるような作品だなというふうに思いました。見ているものと、表現したいものと、このプリントの感じがすごく良く合っているので、作者の方が自分の中でも表現したいものと、表現の方法のようなものがしっくりと合ってきているのかなという気がして、さらにどんどん撮ってもらって作品を見たいな、と思いました。
◇最終選考ノミネート作品(50音順) ※印 次点
小松原 穂香 『忘却の果て』 ※
■最終選考ノミネート作品講評
今回最終選考に残った作品は非常にハイレベルで、特にU40の作品は審査員のお二人から「いつでも写真展が開催できるレベル」と話があった。最終選考に残った作品の講評も掲載する。
U40部門 最終選考ノミネート作品講評
・川嶋 久人 『ウクライナの肖像』 ※次点
◇宇井眞紀子審査員
たまたまですが、川嶋さんの写真はずいぶん前から見せていただく機会があり、頑張っているなと思っていたのですけど、今回のウクライナの写真を見て、やっぱり行動力が凄いと思いました。「今行かなきゃ」というところですぐに(現地へ)行ったことが素晴らしいと思いますし、ここに写っている人たち一人一人ときちんと向き合って撮れているポートレートだなと感じて、それがすごく良いなと思いました。
キャプションは鬼海弘雄さんの『PERSONA 』を思わせるようで、
過去に「これ良いでしょ? 良いでしょ? キャプションがあってこそなのよ!」って、鬼海弘雄さんの『PERSONA 』を見せながら授業をした記憶があるんですけども(笑)、それが良い方向に影響してくれたのだったら嬉しいなと思います。変な説明ではなくて、その人の人となりやウクライナの状況などがわかるような「ひゅっ」と短いキャプションをつけて、それがあることでポートレートがより一層入ってくるというか。
構成も凄く良かったと思いますし、最後まで迷いました。川嶋さんを選びたいという気持ち、作品が良いなっていうのもあって・・・。
本当に良い作品だったと思います。
◇中藤毅彦審査員
3年以上に渡って、現在進行形で非常に悲惨な状況にあるウクライナに5回も通い詰めて撮影している。これは凄く意義があることで、誰でもできることじゃない。
様々な報道写真家やドキュメンタリー写真家が撮影している戦場の悲惨な状況を撮った写真は見ることがあるんですけれど、(今回の川嶋さんの作品は)人々のポートレートっていう切り口に自分で専念して、一見シンプルなポートレート、戦場ということを感じさせることのないようなポートレートとちょっとした言葉を添えて、その切り口でジワジワと今の戦場の中にあるウクライナに暮らす人々のリアルが浮かび上がってくる、素晴らしい作品だと思います。
そして、これが本当に最後までギリギリ候補になったんですけど、川嶋さんのこの作品は”プロフェッショナル”だと。どこに出しても通用する、どこでもできる、ある意味もうプロとして独り立ちしている人のような感じに自分は見受けられて。大きな賞ももらっていますしね。
これは発表する価値があるし、必ず大きな形で発表される作品だと思います。
・射手園 芽 『シコロサンゴと生きる』
◇宇井眞紀子審査員
とにかく、きちんとしっかりと撮れている。
もう本当に感心しました。サンゴの状況、それを取り巻く海の中の状況、それをきちんと把握されて撮っているのが写真からももちろん伝わりますし、キャプションからもしっかりと伝わってくる、この作品もプロフェッショナルな作品だなぁというふうに感じました。
1枚1枚丁寧に見たくなる、そんな作品で素晴らしいと思いました。
◇中藤毅彦審査員
完成度が高い。本当にプロフェッショナルな作品で、どこに出しても通用する、どこでも写真展ができる、そういう作品だと思います。漠然と撮っているのではなく、抱卵の様子だったり、魚たちの生態にまでとても詳しく知っていらっしゃる方だからそのキャプションによる説明書きがあって、写っている生物の生態や色々なその時の状況が分かるというところが楽しめる。
写真1枚1枚の完成度も素晴らしいですし、サンゴの、ある種楽園のような、魚たち生物たちの暮らす場でもありつつ、病気での白化現象という環境問題、現実も捉えられていて、そういう問題提起にもなっているという、とても意義のある作品だと思います。
・きくち あみ 『もくもく』
◇中藤毅彦審査員
もうね、めちゃくちゃ好きです。面白いですね。
スナップの天性の勘の良さを持った、スナッパーですね。ユーモアもあるし、シャッターチャンスを捉える反射神経もあるし、あと視点がとても広い。視野が広い中で、その中で起こっているちょっとしたハプニングだったり、面白い状況をちゃんと見ているんですね、広い視野の中で。
そのスナッパーとしての力量は素晴らしいと思いますね。
なんかこう、深刻ぶったスナップではなくて、ちょっとクスっと笑ってしまうようなユーモア、それがとても見ていて楽しいですね。
梅佳代さんやオカダキサラさんとか、若い女性のスナッパーの人に、そういうしなやかな感性の人がいるんですけど、そうした系譜を引き継ぐ、
新たな、これからの時代のスナップを切り開いていく、そういう写真作家になるんじゃないかなという気がします。
これも本当に選びたかった作品の一つです。
◇宇井眞紀子審査員
私も好きです。なんか1枚1枚見ていると、つい綻んでしまう・・・、顔が(笑)
なんか、「良いなぁ~。おもしろいな~。そうだよね、この瞬間だよね」、みたいな感じがすごく伝わってくるし、めちゃめちゃ反射神経が良いなって思います。
で、結構広い絵をとっているんですけれども、ちゃんと隅々まで見えているなぁっていうのをすごく感じて、しかもその瞬間にちゃんとシャッターを切れている。これが実はなかなかできないことじゃないかなと思います。
凄くこの先、楽しみだなぁって。きっとこれからどんどん面白い作品を撮ってくれるだろうし、発表する場もきっと多くなってくるんじゃないかなっていう風に、めっっっちゃ期待しています。
・和栗 伊留加 『南国のシカ 日本最南限に生きるケラマジカの初夏』
◇中藤毅彦審査員
とても良かったです。ケラマジカというあまり知られていないシカを僕自身初めて知りました。写真もとても上手に、シカの表情だったり生活だったりを写していて、シカの方も和栗さんが撮っていることを許してくれているというか、自然な姿を切り取ってシカを驚かせたりせずに入り込んでいる。その感じがとても良いと思いました。素晴らしいです。
◇宇井眞紀子審査員
私もこのシカのことは知らなかったので、ケラマ自体が自然豊かで美しいところだと思うのですが、美しい自然の中にいるシカの様子をすごく優しい目線で捉えられているなと良いなと思いました。自然の中にいる人々とシカが共生できている様子が伝わってくるのが素晴らしいなと思いました。そして、シカがどうなのかとかケラマがどうなのかということが分かって所々にキャプションが書かれていて、ポートフォリオ自体がすごくまとまっていて伝わってくるものがあって凄く良かったと思います。
U30部門 最終選考ノミネート作品講評
・小松原 穂香 『忘却の果て』 ※次点
◇宇井眞紀子審査員
まず、忘却のさらにその果て・・・、『忘却の果て』というタイトルが良いなと思いました。どれも凄く写真としてのインパクト・伝わるものがありますし、しっかり歩き回らないと撮れないだろうなという被写体にちゃんと出会っていて、被写体に呼応して撮影している。色味も良いし切り取り方も面白い。とにかく、どこでどうやって出会って、「この被写体どこで見つけてきたんだろう?」という所がまずは凄く良いなと思いました。
ときどき(被写体に)文字が入ってきているんですけれど、邪魔ではなく、文字が入っていることで物語というか、感じるようなところがあってすごく面白いなって思いました。もっと見たい!
ただ一つ、廃線跡というか遺構みたいなものは、ちょっと資料を見て行ったら撮れそうな感じもしちゃって、それを入れこまない方が、独自の目線が伝わって良いかなと思いました。
◇中藤毅彦審査員
僕も凄く面白いと思って、最後の最後で次点になったのですけど、ギリギリまで迷ったぐらい面白かったですね。
なにか被写体を見つける眼力が凄くある人だなと思いますね。どうやって見つけているのか分からないのですが、独自の臭覚というかアンテナがあるのかなと。
アップで切り取っている写真が面白いですね。宇井先生も仰っていましたが廃墟写真とか最近ブームだったりしますけど、その範疇にあるような「廃墟界の名所」みたいなところに行って引きで撮った写真は排除した方がいいのかもしれませんね。
不思議な視点をお持ちだからそっちを伸ばした方が良い気がします。あとは本人の考えや気持ちなので、それに口を出すことではないのですが、ステートメントで自分自身を被写体に重ねて「自分の存在意義とはなんなのか」とか、まあそんなことは考えなくていいと思いますけどね(笑)。自分と重ね合わせるような無常観みたいな思想じゃなく、単純に視点がとても面白いので。
この作品の中でサギの死骸と蝶が網に引っかかっている写真、これだけちょっと違う視点の作品のような気がしました。物とか人間が作った人工物のようなものが朽ちて、当時はもともと何かの役割であったものが、その役割を終えてどこかに朽ちていく、忘却していく――。という視点の方が面白いような気がしました。その辺りのまとめ方など、さらに完成度を高めながら厚みをつけていって欲しいと思いました。
■総評
・応募時のファイルについて
中藤毅彦氏「ファイルは立派な高級品を使う必要はないのですが、透明度の高い、作品の質感がプリントも含めてしっかり見えるものがいいと思います。ファイルが安っぽいファイルで、それで見え方が悪くなるとご本人が損をしてしまうので、そこは気を付けてほしいですね」
宇井眞紀子氏「せっかくの見せる機会なのに、ちゃんと作品が見えない、透明度が悪くてぼんやりしか見えないと凄くもったいないと思いますし、「いかに人に見てもらうか」、きちんと見せるということを考えた方がいいかなと思います」
・ステートメント(応募作品に同封する写真展内容・作品解説)について
宇井眞紀子氏「ステートメントもやっぱり伝えたいと思うことをしっかり文章に書くということが大切なんじゃないかと思います」
中藤毅彦氏「まず一つは、(ステートメントは)ポエムと違うと言いますか。凄くポエジーな言葉で、でも何も語っていないみたいなステートメントもありますが、それでは何も伝わらなくて。一種の写真を補足する説明がステートメントだと思います。で、長すぎても面倒臭くなるので、言葉簡潔に伝わる。それが一番良いステートメントだと思いますね」
宇井眞紀子氏「そうですね。やっぱり読んで分かりやすいものが良い。美辞麗句が書いてあっても「結局何が言いたいのだろう・・・」と、分からないものが意外と多かったりします。だからやっぱり、「自分が伝えたいことを人に伝えるにはどう書いたらいいか」ということを考えるといいのかなと思います」
中藤毅彦氏「そう、何が言いたいかが大事なんですよね。ただし、作品が一番大切で、ステートメントはそれを補足する、あくまで二次的なものです。まずは写真が良いことが大前提となります。ステートメントが良くて写真が面白くないでは本末転倒ですね」
・ポートフォリオレビューについて
中藤毅彦氏「ポートフォリオレビューを受けて、それにより作品がブラッシュアップされる。今回そういう方が二人通ったという意味では、継続してこちらも作品を見ていくことで理解も深まりますし、作家さん本人もこちらの
アドバイスを反映させるという点で、凄く意義があることだと思いますね」
宇井眞紀子氏「やっぱり、少しでも多くの人に作品を見てもらって、感想であったり、「もっとこうなったらいいんじゃないか」という話を聞く機会は、私はあった方が良いと思っています。ただし、ポートフォリオレビューで言われたこと全てに「そうだな」と思わないかもしれないですし、「そうだな」って思わないことも大事かなと思うんです。「こういうふうに先生は言ったけど、自分は違うんだ」ということに気が付くことも大事だと思います。そういう意味でも「自分はこういうことをやりたいんだ」とポートフォリオレビューで見せるということが、次に繋がっていくのではないかなと思います」
中藤毅彦氏「そうですね。先生が言ったことをすべて鵜呑みにする必要はなくて、自分が違うと思ったら、それに筋を通せばよくて。最終的に決めるのは自分だということは変わらないですね」
■おわりに
今回グランプリに選出された2名の写真展は2026年2月5日(木)~2月16日 (月)※最終日15時まで(火・水休館)にOM SYSTEM PLAZAにてそれぞれ開催される。
【関連リンク】
https://note.jp.omsystem.com/n/nc05b78e238b8
PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。