中井菜央展「雪の刻」が京都・PURPLEで開催される。
「津南町」(新潟県)は豪雪地の南限に近く、その多湿の雪は、昼は緩み夜は締まりを繰り返し、うねる大波のような造形でうず高く積もって、街も野も森も呑み込んでしまいます。空の雪雲は光を奪い、地の積雪は物音を吸い尽くし、屋外も室内も果てない静寂の中、時間が停留します。それを束の間破るのが屋根に凍った雪の滑落の轟音、そのときは時間も切迫しますが、それもこの地全体からすれば、極小の一点にすぎず、そのピンホールはたちまち雪に塞がれて、事の前以上に音も時間も絶えてしまいます。
四月も半ばを過ぎ、積雪の中に水の滴下の音が聞こえると春が始まります。程なくその空洞は随所に穴となり、そこからは時間が色彩と音と匂いと共に現れて身をよじるようにして疾駆、自然は一つに融合したかのように躍動します。
この地では雪が時間を律するのです。
洞穴の中には湧水の音が響き、それは四十年前の雪解け水が再び地表に現れたものです。その永い時間の音の残像に包まれて森を歩けば、地を這うように生える小木、常に揺れているようによじれて伸びる高木、そして不意に出現する廃村の跡形も、全てが時間の姿形と感じられます。雪は大気となり水となり、常に存在して時間を律し続けているのです。万物が今刻んでいる時間、かつて刻んだ時間……、あらゆる時間が重なり合って響となり、その無二の響があるところが「この地」です。
私は本作で、人が与えた地名も地境も消えた「この地」のビジョンで「雪が律する時間」を表現しようとしました。展示空間では、時間の渦巻くような流れとその響に包まれる感覚を共有したいと思っています。
中井菜央
【写真展概要】
会期::2022年6月11日(土)-7月3日(日)
住所:京都市中京区阿弥町122-1式阿弥町ビル3階
時間::13:00–20:00 [月・火・木・金]、11:00–19:00[土・日]
休廊::水曜日
【イベントのお知らせ】
「雪を撮るということ、時間を表現するということ」
中井菜央×竹内万里子トーク
日時: 6月18日(土) 14:00-16:00(予定)
場所:PURPLE(20名、要予約)
PURPLEでの「雪の刻」展の開催に際して、写真家 中井菜央と批評家・作家 竹内万里子によるトークイベントを開催します。中井が雪を通して表現しようとしたこと、また一貫して「時間」をテーマにしていることなどを糸口に、紡ぎ出される対話にご期待ください。
【予約フォーム】
https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLScBajKF8RgS9QR69qn2yloik-WC3XZFsEMOBn_STanhvT0icw/viewform
「中井菜央と姫野希美によるポートフォリオレビュー」
日時: 6月19日(日)13:00-18:00(お1人 約20分、お申し込み後時間をご連絡いたします)
場所: PURPLE(10名、要予約)
料金: よろしければ、当日PURPLEで書籍を一冊ご購入ください。
写真家 中井菜央と赤々舎 姫野希美によるポートフォリオレビューを開催します。2人それぞれの視点から一つの作品を拝見し、対話します。参加を希望される方はプリントをお持ち寄りください。
【関連リンク】
https://purple-purple.com/exhibition/nao-nakai-2022/
出展者 | 中井菜央 |
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会期 | 2022年6月11日(土)〜7月3日(日) |
会場名 | PURPLE |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。
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