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東京九段の九段坂上KSビルでアート部門奨学生によるグループ展「回帰観測」が開催

2025/08/04

東京九段の九段坂上KSビルでアート部門奨学生によるグループ展「回帰観測」が開催される。
 
日本をルーツに持ちながら、アメリカ、イギリス、ドイツなど海外の美術大学で研鑽を積む若手アーティストたちが、それぞれの視点から「回帰」と「観測」をテーマに作品を発表。異なる文化背景や専門領域を持つ8名の奨学生が自ら企画・運営し、表現を通じて、日本という出発点を見つめ直す試みを紹介する。

 

■展覧会について
「回帰観測」。
それは、私たちが日本という地点・時点から出発し、異なる土地で観測を行い、やがて再び出発点を見つめ直す営みの呼び名です。制作という行為を伴うこの軌跡は、離郷と帰郷のあいだをたゆたう往復運動であり、今回はその中途報告としての展示を企画しました。
 
アメリカ、イギリス、ドイツなど、多様な文化や制度のもとで思考と表現を深めてきたアーティストたちは、それぞれ異なる方法と関心を手にしています。私たちがあらためて「日本」という出発点を見つめなおすことは、自らの根源を問い直すと同時に、現在のアートシーンや美術教育の制度を批評的に捉え直す試みともなります。
この展示で扱われる「回帰」は、単なる帰省やノスタルジーにとどまらず、記憶や制度、語りの文法にまで及び、解釈と経験によって常に変化する領域との再接続の試みです。そして観測とは、変化を捉えなおすまなざしであり、芸術を通じて私たちは常に「新たな出発点」を生成していくのです。
 
多くのジレンマや限界に向き合いながら、それでもなお表現を試みるという点に、私たちの実践のリアリティがあります。江副記念リクルート財団の支援を受けながら海外でリサーチや制作を継続している私たちは、様々な葛藤と対峙しながら、異なる文脈に身を置くことで得た視座を作品に昇華しようとしています。
本展では、個々の試みを通じて、日本のアートシーンや歴史的意識を捉え直す契機を提示すると同時に、財団の活動が社会の中でどのように位置づけられ得るかを問いかけます。また、この時代における芸術の意義を考えるための、局所性と普遍性を想像し発見する場となることを目指します。
作品と鑑賞者の間に互酬的な関係を結ぶことも本展の目的です。奨学生という限定された立場にあるからこそ、その立場からしか見えない風景をひらき、外部との関係性を模索し続けることができると私たちは信じています。なお会期中には、アーティスト、キュレーター、批評家、研究者らを招いたトークイベントも開催予定です。多角的な視点から展示を位置づけ、現在の日本における芸術表現の可能性を探る場にしたいと考えています。

 

■本企画の見どころ
・海外有名美術大学で学び、すでに活躍を始める若手アーティスト8名の作品を一挙に紹介
・日本を起点に、様々な領域間の「回帰」と「観測」の中途報告を反映した多様な作品群
・アーティスト、キュレーター、批評家、など多彩なゲストを招いたトークイベントを開催

 

  • ■展覧会情報
    アート部門奨学生によるグループ展「回帰観測」
    会期:2025年8月19日(火)~9月14日(日)
    時間:12:00〜19:00
    休廊日:月曜日
    会場:九段坂上KSビル
    住所:東京都千代田区九段北1丁目14

 

■関連イベント
トークイベント①「キュレーションと観測」(仮題)
ゲスト:鷲田めるろ(金沢21世紀美術館館長)
日時:8月23日(土)15:00〜16:30
 
トークイベント②「アートのポリティクスを考える」(仮題)
ゲスト:百瀬文(美術家)
日時:8月30日(土)15:00〜16:30

 

■参加アーティスト
上野里紗 / Risa Ueno

1997年生まれ。
編み作家。ロンドン芸術大学 セントラル・セント・マーチンズで学士テキスタイルデザイン、修士 Art & Scienceを修了。日常-衣食住を素材に、手引きとしての数学・科学とテキスタイル=考えを翻訳する道具を用いて制作する。主な活動に LVMH Maison 0 / This EarthAwardショートリスト (2023)、Colechiにて「AGREENCULTURE: Fashion and Farming 」出版(2023)、LOADING...: Exhibition and Symposium (University of Oxford, 2025) など。
 
大竹紗央 / Sao Ohtake


2000年生まれ。
ニューヨーク拠点のインスタレーションアーティスト。政治的緊張が日常に及ぼす影響や、異なる価値観の人々が非言語的な触覚的関わりを通じて再びつながる瞬間に関心を寄せ、柔らかい素材と音を用いた作品を制作。シカゴ美術館附属美術大学卒業後、ニューヨーク大学 Interactive Telecommunications Programで修士号取得。主な活動に、「Beyond Interface & Prompt」(Williamsburg Art & Historical Center, New York, 2025), 「Birds in Art」(Leigh Yawkey Woodson Art Museum, Wisconsin, 2025) など。
 
奥村研太郎 / Kentaro Okumura


1999年生まれ。
ロンドンと東京を拠点に活動するアーティスト。2025年、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズでMA Art and Science修了。多様なメディアや技法を横断しながら、地図制作、領土化、翻訳、技術性といった概念への問いを立てるため「探査的感性学」を方法論として採用。主な活動に、「Central Saint Martins Post Graduate Show」(CSM King's Cross, ロンドン, 2025)、「Inter-sphere」(biscuit gallery, 東京, 2024)、「Artist Fair Kyoto 2022」(京都新聞ビル, 京都, 2022) など。
 
蔵内淡 / Dann Kurauchi


2003年生まれ。
東京都立総合芸術高校を中退後、2021年よりロンドン芸術大学 セントラル・セント・マーチンズに入学、2025年6月に同大学のファインアート学部を卒業。大学に在籍中は立体、絵画、映像などをメインに制作。現在は写真やデザインを主に、アートとそのほかのクリエイティブを横断したり応用しながら活動している。
 
中岡尚子 / Hisako Nakaoka


1999年生まれ。
ベルリンと東京を拠点に活動。人は音をどのように聴き、感得するのかを考える。主に録音再生技術の作為や虚構性に関心を持ち、空間や時間、他者とのコミュニケーションを音を通じて身体的に捉える。近年は、私たちがお互いに他者であるという実感を音響的に探求し制作。東京藝術大学音楽学部音楽創造環境科卒業。ベルリン芸術大学サウンドスタディーズアンドソニックアート修士課程に在学中。
 
富田ネオ / Neo Tomita


2003年生まれ。
都立総合芸術高校美術科彫刻専攻を10期生として卒業後渡英し、ロンドン芸術大学セントラル・セント・マーチンズ ファインアート学科3D専攻に在籍中。彫刻を主な制作媒体としている。現在は史や私の主観自体から排除されている例外・逸脱的なものを滑稽〈的〉であると認めた上で、それを聖なる/美的なものとしての表現に取り組んでいる。それの実践として<通語的なもの>に関する制作もしている。
 
増田麻耶 / Maya Erin Masuda


1998年生まれ。
マスダの作品は、サイボーグ・エコロジー、惑星的トラウマ、人工生命体、クィアネスを中心に展開されている。工学にルーツを持ち、コロジカルな親密性に着目するアーティストとしてマスダは、非人間的なもの、疎外されたもの、両義的なものを織り交ぜた、オルタナティブな知識生産の場を提案している。テクノロジーの不完全で政治的な性質と手を結ぶ彼女の作品は、自然、テクノロジー、人工物が絡み合うオルタナティブな未来を示唆しながら、種族間の帰属とケアについて思索する。
 
ヨウシジン / Zijing Ye


1999年生まれ。
存在の変容や流動するアイデンティティ、境界の曖昧さをテーマに空間介入を行うアーティスト。彫刻、映像、パフォーマンスを横断しつつ、感覚と思考の境界を問い直すインスタレーションを制作。養殖サーモンやパスポートの押印された魚の皮、飛行機の部品など、詩的かつ日常的な素材を用いて、国籍や移動といった制度的境界が個人の自由と存在に与える影響を批評的に探る。ロンドン大学スレード美術学校卒業。Mandy Zhang Art Prize、The Batsford Prize(美術部門)、クマ財団奨学金を受賞。
 
【関連リンク】
https://www.instagram.com/recruit_art

展覧会概要

会期 2025年8月19日(火)~9月14日(日)

※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。

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