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小西弘晃写真集『City of Whispers』

2025/08/27
髙橋義隆

小西弘晃写真集『City of Whispers』が刊行された。
 
小西は1998年、東京都生まれ。音楽大学卒業後、ゲーム・アニメ会社でサウンドクリエイター、サウンドディレクターとして勤務をする傍ら、2023年より写真家としての活動を開始する。モノクロームのストリートスナップ、ポートレートを中心に、「現実と異界が曖昧に交差する瞬間」をテーマに作品を発表しており、本書は、初の作品集となる。
 
音楽がルーツである作家ならではの、「音」を頼りに独特の視点で撮影された写真は、どこか非現実的であり、あらゆる自明性の外へ私達を誘う。作中の随所に存在する、時間や場所の感覚が不透明になるような、ある種の「不快さ」を伴う体験は、退屈な現状を打破する重要な要素となり得るのかもしれない。一貫して、人の知覚やプロクセミクスの多様さ、可能性の拡張を試みる挑戦的な態度が窺える。

 

朝、目が覚めると微睡の中で昨日の夢から今日の現実が徐々に押し寄せてくる。
本来あらゆる可能性に開かれている世界で、"変わり映えのない日常"として生きる以外の選択肢がふと頭をよぎる。しかし、そういった考えはすぐにどこかへ消え去り、日常に引き戻される。声にならない心の叫びは、暗渠のように蓋をされ、地表からは見えなくなる。日々の連続によって時間が、この肉体が有限であることをすっかり忘れてしまう。
私は、写真を撮る必要があると思った。
 
社会に登録された存在である限り、"ここではないどこか"への希求が止むことはないだろう。根源的な生きる力は、めまいに似た体験=自明性の外に出ることによってもたらされるからだ。
自由を求め、ひたすら街やストリートに散りばめられた「異界」との接続点を探す中で、人の知覚はもっと複雑で多様なパラメータによって構成されていることに気がつく。
私にとって、一番の手掛かりとなるのが「音」である。
街の記憶が声となり、風となり、何かをそっと囁く時、この世界からの抜け道が開かれる。
― 小西弘晃(本書掲載ステートメントより)

 

印象的な白と黒、光と影の表現は森山大道、川田喜久治といった日本写真界の巨匠に対するリスペクトを感じつつ、AI時代における写真というメディアのリアリティを問う新しさが同居しており、現代を生きる若い世代が持つ、静かなエネルギーを感じる一冊となっている。

 

  • 小西弘晃『City of Whispers』
  • 出版社:私家版      
  • 発行年:2025年
  • 仕様:182×257mm、56ページ、ソフトカバー     
  • 言語:英語、日本語
  • 価格:3,180円(税込)

 

【関連リンク】
https://inuuniq.co.jp/book/city_of_whispers.html

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