木原千裕『不思議』がふげん社より刊行された。
- ――それでも、犀の角のようにただ独り歩み、対象それ自体と向き合うこの回路は私と私以外にすべての繋がりがあるように開かれていた
木原千裕は、1985年福岡県出身の写真家で、2021年に第1回ふげん社写真賞グランプリを受賞し第一作目の写真集『いくつかある光の』を刊行した。本書は、同じく2021年に第23回写真「1_WALL」でグランプリを受賞した作品を、4年の月日を経て編み直した、木原の2冊目の写真集となる。
本作は第23回写真「1_WALL」グランプリ受賞作。僧侶の恋人との別れと、チベットの巡礼の旅を経て、自己と他者をつなぐ回路が開かれていく。
恋人の僧侶との関係を、彼女が所属する寺から性別、性的指向、宗教のしがらみを理由に拒絶された出来事は、木原に自身の生の根幹を揺らがすような深い傷と問いを残した。信仰とは何か、宗教とは何か、という問いと葛藤を胸に、聖地チベット・カイラス山に巡礼の旅へ向かう。
標高5000mという肉体的にも精神的にも極限に追い込まれた場所で、吹雪の中、五体投地をする信仰者とともに、歩みを止めずに独りひたすら前へと進む中で、その脳裏では過去の記憶が激しく流れ出していった。
カイラス山の険しい山肌、地元福岡の街、恋人の残像、京都や広島で出会った宗教行事とチベットの巡礼者たち、夕暮れに佇むあの日の自分。時間と場所を行き来しながら接続し合うイメージの奔流は、自己と他者のつながりと、自らが向き合う世界を肯定するように開かれていった。
アイデンティティが壊れるような困難に遭いながらも、光を求めて歩み続ける中で紡がれた、個人の生と強く結びついた写真とテキストは、この世界のどこかで誰かといつの日か繋がり、新しい物語が立ち上がるだろう。この世の不思議に満ちた、豊かな連環を感じさせる一冊だ。
- 木原千裕『不思議』
発行日:2025年11月4日- 発行所:ふげん社
- デザイン:尾中 俊介(Calamari Inc.)
サイズ:A4変形
仕様:上製本
ページ数:116ページ
写真点数:74点
定価:6,600円(税込)
【関連リンク】
https://fugensha-shop.stores.jp/items/691ee0afe2178521190cd428


PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。
「Photo & Culture, Tokyo」最新の更新情報や、ニュースなどをお届けメールマガジンのお届け
書籍、写真グッズなど会員限定の読者プレゼントを実施会員限定プレゼント