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東京丸の内のBUGでアートワーカー(企画者)向けプログラム「CRAWL」選出企画中屋敷智生×光島貴之〈みるものたち〉が開催

2025/05/12

東京丸の内のBUGでアートワーカー(企画者)向けプログラム「CRAWL」選出企画中屋敷智生×光島貴之〈みるものたち〉が開催される。
 
本展覧会では、全盲の光島貴之(みつしま・たかゆき)、色弱の中屋敷智生(なかやしき・ともなり)という独自の仕方で世界を捉える二人の美術作家を取り上げ、〈みる〉ということについてあらためて意識を向けてみる機会を作る。
 
光島は、木板に連なって打ち込まれた釘の傾きや高低差によって街の姿を表現する。それは光島が白杖を使って歩いたり、日々生活する中で得たイメージを手ざわりという別の感覚に置き換えたものだ。一方の中屋敷は、「遠くにあるものは小さく見える」「過去と未来を同時に見ることはできない」といった知覚の常識を解きほぐしながら、彼独自のトーンでモチーフに新しい存在の仕方を与える。
 
本展覧会では作品に直接手で触れることができる。さまざまな感覚をひらいて鑑賞する体験は〈みる〉こととの新しい出会いをもたらし、私たちの共通(だと思っていた)認識の更新を促すだろう。鑑賞者の中でより豊かな世界像が築かれていく未来に、本展覧会が寄与できればと願っている。
 
■〈みるものたち〉とは誰か
〈みる〉という言葉には実に多くの意味が含まれており、私たちは日常のさまざまなシーンでこの言葉を用いている。視界に入れるときの「見る」、世話をするときの「看る」、こころみるときの「試る」など、複数の漢字を当てはめることもできる。このように、〈みる〉という言葉は「状況を把握する、経験する」といった厚みのある表現として多用されており、英語のseeのように他の言語でも同様の傾向がみられる。
 
本展覧会では、独自の仕方で世界をみる二人のアーティストに焦点を当てる。色弱の中屋敷智生は多くの人とは異なる色の世界で絵を描き、全盲の光島貴之は光のない世界でレリーフを制作する。彼らは音や手ざわり、言葉による記憶などの隣り合う感覚を総合しながら作品を生み出す。しかし〈みる〉という言葉の厚みが示唆するように、色弱や全盲ではない人たちも、単に視界に入れるということ以上の広がりをもって世界を「みている」のだと言えそうだ。  
 
このように、本展覧会では〈みる〉ということの厚みや広がりに注目しながら、中屋敷と光島という二人の〈みるもの〉、そして鑑賞者という第三の〈みるもの〉を加えた〈みるものたち〉のあり方を考える。視覚に特性のある彼らの作品にふれることで、〈みる〉ということにあらためて出会い直す機会となるだろう。
 
■さわれる展示
本展覧会には、直接手で触れて鑑賞することのできる作品がある。
 
光島によるレリーフ状の新作では、木の板に連なって打ち込まれた釘により京都の街の姿が表現される。路面のわずかな傾斜を敏感に捉える彼の感覚は釘の高低差に反映され、風を切って走り去る自転車は渦巻き状の釘のラインで表現される。鑑賞者は、このように彼が視覚以外の観点からみる街のかたちを、手で触れることで追体験できる。
 
 一方、中屋敷の絵画作品にはマスキングテープが画材として用いられるという特徴がある。キャンバスの中では異物とも言えるマスキングテープの存在は、絵画の物質としての存在感をよりあらわにするだろう。この物質性は、色を明度でみる彼が独自のバランスで描き出す「何かにみえるか、みえないか」という瀬戸際のイリュージョンとの間で、鑑賞者の焦点を絶えず揺さぶるという現象をもたらすはずだ。
 
 このように、本展覧会では目でだけではなく手で触れて、その音にも耳をすませながら、さまざまな感覚を使って作品を〈みる〉ことができる。
 
■二人のアーティストが同じテーマで制作する新作を展示
以上のような視覚に特性のある二人の表現の特徴を際立たせるために、本展覧会では中屋敷と光島が同じテーマで制作する新作を展示する。
 
この二つの作品は会場中央に立てる壁に展示されるが、背中合わせに配置するため、両者の作品を同時に見比べることはできない。鑑賞者にとってはもどかしい体験となるはずだが、二つの作品を傍観者の視点から眺め比べるのではく、一つ一つの作品世界の当事者として向き合い原寸大で受け止めるよう鑑賞者を促す。
 
まわりに視線を移すと、ギャラリー壁面には二人の作品が混在するかたちで配置され、両者の作品世界を隔たりなく体感できる構成となっている。光島作品の余韻を残したまま中屋敷作品をみ、また光島作品をみる。そうした流れに身をゆだねる中で、視覚・触覚・聴覚などの区別は曖昧になり、「視覚に特性がある」というアーティストの属性さえも次第に意味を失い始めるだろう。鑑賞者はそのとき、作品情報ではなく作品そのものと向き合い、〈みる〉体験に没入しているはずだ。

 

  • ■展覧会情報
    アートワーカー(企画者)向けプログラム「CRAWL」選出企画
    中屋敷智生×光島貴之〈みるものたち〉
    会期:2025年6月4日(水)〜6月29日(日)
    時間:11:00〜19:00
    休廊日:火曜日
    会場:BUG
    住所:東京都千代田区丸の内1-9-2 グラントウキョウサウスタワー1階

 

■企画者プロフィール
高内洋子 / Yoko TAKAUCHI
兵庫県生まれ、京都府在住。関西学院大学大学院文学研究科博士課程後期課程単位取得退学。博士(哲学)。重症心身障害児施設、グループホーム、ホームヘルパーなど障害のある人と関わる業務に携わりながら、2012年より全盲の美術家・光島貴之の専属アシスタントとして作品制作のサポートをおこなう。2020年より、アートギャラリー兼制作アトリエ「アトリエみつしま」マネージャーを兼任。施設運営管理および展覧会やワークショップなどの企画を担う。携わる主な企画として、展覧会「それはまなざしか」(2021年、アトリエみつしまS a w a -Ta d o r i)、「まなざしの傍ら」(2023年、同会場)、「今村遼佑×光島貴之感覚をめぐるリサーチ・プロジェクト〈感覚の点P 〉展」( 2 0 2 5 年、東京都渋谷公園通りギャラリー)。ワークショップ「視覚に障害のある人・ミーツ・アート」(2021年〜)、「ぎゅぎゅっと対話鑑賞」(2023年〜)ほか。趣味は知恵の輪。


 
■アーティストプロフィール
中屋敷智生/Tomonari NAKAYASHIKI
1977年大阪府生まれ、京都市在住。2000年京都精華大学美術学部造形学科洋画分野卒業。2007年とよた美術展’07(豊田市美術館、愛知)審査委員賞。国内を中心に、韓国、台湾、イギリス、フランスなどのグループ展やアートフェアに参加多数。近年では絵具と同様のメディウムとしてマスキングテープを使用し、独特のコラージュ的なレイヤーとテクスチャーのある絵画作品を手がける。


 
光島貴之/Takayuki M ITSUSHIMA
1954年京都府生まれ。10歳頃に失明。大谷大学文学部哲学科を卒業後、鍼灸院開業。鍼灸を生業としながら、1992年より粘土造形を、1995年より製図用ラインテープとカッティングシートを用いた「さわる絵画」の制作を始める。’ 9 8 アートパラリンピック長野、大賞・銀賞。近年は、連なって打ち込まれた釘の傾きや高低差により街の姿を表現したレリーフの組作品などを発表している。

 
【関連リンク】
https://bug.art/exhibition/crawl-takauchi/

展覧会概要

出展者 中屋敷智生×光島貴之
会期 2025年6月4日(水)〜6月29日(日)
会場名 BUG

※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。

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