林田真季『BEYOND THE MOUNTAINS』が刊行された。
本作は、日本における不法投棄の歴史とその影をたどることで、私たちの社会が何を記憶し、何を忘却してきたのかを問い直す試みだ。
国や自治体、住民によって記録された公的アーカイブのイメージと、林田自身が撮影した現在の風景とを組み合わせることで、過去と現在が交差する視覚的アーカイブを構築している。不法投棄が引き起こす環境や社会への影響は、日本にとどまらない。廃棄物の管理の方法は、各国の政治や経済、文化的背景によって大きく異なり、時に私たちが意識することのない形で社会のあり方を映し出している。本書は、日本における不法投棄をケーススタディとしながら、読者自身の文脈においてこの問題を捉え直し、考えるための装置となることを意図している。
本書は、2020年にシンガポール国際写真フェスティバル(SIPF)フォトブックダミーアワードを受賞し、その出版助成を受けて制作された。さらに、リマインダーズ・フォトグラフィー・ストロングホールドが「出版を実現させる」という理念のもと立ち上げた ONE AND ONLY EDITIONS の記念すべき第一弾として刊行される。林田自身の視点に加え、編集・デザイン・製本に携わる人々の力が結集し、一冊の本として結実した。
過去と現在が交差し、見えないものを可視化するこのアーカイブが、私たちが見落としてきたものへの新たな視点をもたらすことを願う。
《Beyond the Mountains》は、日本における不法投棄のビジュアル・アーカイブである。そのリサーチ対象は、2023年3月31日に失効した産業廃棄物特別措置法の特定支障除去事業の対象となった大規模事案を中心に、1990年代から2000年代にかけて多発した全国各地の不法投棄とその関連重要事項である。
当初はストレートなドキュメンタリー・プロジェクトのつもりだったが、国や自治体、住民の記録画像を参照・複製し、傷跡の残る現在の風景を撮影した私自身の写真と断片的に組み合わせて本の形式にすることに行き着いた。それは、それぞれの事件にまつわる具体的なストーリーを語ることよりも、現在の日本の印象と知られざる過去の姿とのギャップを表現しようと思ったからだ。
日本はあくまでケーススタディであり、世界各地の廃棄物処理が自然に与える影響について再考を促すことが、このアーカイブの目的である。廃棄物はすべての人間に関係するものだが、その管理に関しては場所によって大きく異なり、世界共通ではない。思想的、文化的、政治的な要素も関わっている。そのため本書は、日本で起きていることを理解させようとするものではなく、読者を各々の文脈で考える旅へと誘うことを意図している。
文:林田真季(アーティスト)
林田真季『BEYOND THE MOUNTAINS』
コンセプト、ストーリーライン、アートディレクション:後藤由美(リマインダーズ・フォトグラフィー・ストロングホールド)
グラフィックデザイン・コーディネーション:バンガート知穂
印刷・製本コーディネーション:有限会社 篠原紙工
価格:9,900円(税込、別途送料)
ページ数:522
重さ:約2kg
サイズ:190mm × 280mm × 35mm
エディション:100部限定(サイン入り)
【関連リンク】
https://reminders-project.org/ja/beyondthemountains-oneandonlyeditionssalejp/
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