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東京品川のANOMALYで原田裕規 個展「夢と影」が開催

2025/01/30

原田裕規《光庭》(2024年)©Yuuki Harada

 

東京品川のANOMALYで原田裕規 個展「夢と影」が開催される。
 
原田裕規(1989年生まれ)は、とるにたらない視覚文化をモチーフに、テクノロジーやパフォーマンスを用いて、社会や個人の本性(ほんせい)に迫る作品を発表してきた。2023年には、TERRADA ART AWARD 2023で1,000組以上のアーティストからファイナリストに選出され、審査員賞(神谷幸江賞)を受賞。2024年には日本ハワイ移民資料館に初の現代美術コレクションとして《シャドーイング》が収蔵・常設化されるなど、いま最も注目される若手作家の一人だ。現在、広島市現代美術館にて原田の美術館では初となる⼤規模個展「原⽥裕規:ホーム・ポート」が開催中であり、本展はそれに合わせて開催されることとなった。
 
原田は、武蔵野美術大学在学中の2012年に「ラッセン展」や「心霊写真展」の企画でデビューし、翌年に23歳にして編著書『ラッセンとは何だったのか?』(フィルムアート社)が刊行されるなど、人々を巻き込む議論喚起型のプロジェクトからその活動を開始した。
 
2019年以降は断続的にハワイに滞在し、同地で独自に発展した「ピジン英語」に代表されるトランスナショナルな文化的モチーフに着目。2022年には日系アメリカ人の混成文化をテーマにした《シャドーイング》を発表し、2023年に日本ハワイ移民資料館で同館初の現代美術展として個展を開催した。
 
それと並行して、2021年にはデジタルランドスケープ作品の制作をスタート。金沢21世紀美術館で開かれた個展では、長さが33時間以上あるCGアニメーション作品の《Waiting for》を発表して話題を集めた。
同作で原田は、33時間ノンストップで地球上に現存する動物の名前を読み上げるパフォーマンスを実施。またこの作品に先行して、24時間にわたり捨てられた写真を見続ける作品《One Million Seeings》を制作するなど、長尺の映像作品を次々と発表した。
 
本展で展示される《ホーム・ポート》は、《Waiting for》の続編に位置付けられる「ドリームスケープ」シリーズの作品だ。2019年以降、原田はハワイ・マウイ島のラハイナを拠点にリサーチを行うようになった。かつてハワイ王国の首都だったラハイナは、原田が研究するラッセンの故郷であり、日系アメリカ人も多く暮らす町だった。しかし、気候変動を遠因とする山火事によって2023年8月に町は壊滅。100名以上の死者を出す大惨事が起きた。
 
この出来事の3ヶ月後に発表された《ホーム・ポート》は、原田の夢想するラハイナの遠い過去と未来が描かれたデジタルランドスケープ作品だ。
100年単位の人類の歩みは大きな打撃を受けたが、100万年単位で土地に視線を向ければ、ラハイナはこれまでも/これからも「あの形」を保ち続けるはず。そうした想像力をもとに、地球規模の厄災を作品に昇華したのが《ホーム・ポート》だ。本展ではこの作品が、ギャラリーのメイン空間を用いて、デジタルとフィジカルの2バージョンで大きく展開される。
 
写真、映像、CG、パフォーマンス、キュレーションなど、多岐にわたる原田の表現活動。しかしそのコアには一貫して「観客の参加を促す」という側面があった。
最初期の議論を誘発する活動はもとより、24時間にわたり写真を見続ける《One Million Seeings》、33時間にわたり動物の名前を呼び続ける《Waiting for》など、いずれの作品にも、観客がいかにして作品に参加するのか/できるのかという問題意識が含まれている。
 
こうした特徴は「演劇性」と言い換えられるかもしれない。それを裏付けるように、原田の《Waiting for》という作品タイトルは、サミュエル・ベケットの演劇作品『ゴドーを待ちながら』(Waiting for Godot)から引用されたものでもあった。原田作品の演劇性を象徴的に表す最新作が《光庭》だ。広島以外では本展で初公開される。
 
海辺の部屋にぽつんと置かれた一脚の椅子。その主は描かれておらず、これからその人物が現れるのか、すでに立ち去ったあとなのかはわからない。本作に描かれた情景は、『ゴドーを待ちながら』と並ぶベケットの代表作『エンドゲーム』(Endgame)の世界観に類似していることがすでに指摘されている。《光庭》を見るとき、鑑賞者の視線は中央の椅子へと自然に誘導される。そのとき、空想上の眼前には「夢のような光景」が広がることになるだろう。こうした仕掛けは、原田が平面作品でも「観客の参加」を促していることを示す。
 
またこの作品では、エドワード・ホッパーを参照して描かれたという、一定のリズムを刻む長い影も印象に残る。夢のような世界に差し込む長い影。それは、本展を構成するふたつのシリーズ──「ドリームスケープ(=夢)」と「シャドーイング(=影)」──の存在を示唆しているのかもしれない。

 

  • ■展覧会情報
    原田裕規 個展「夢と影」
    会期:2025年2月1日(土)~ 3月1日(土)
    時間:12:00〜18:00
    休廊日:日曜日、月曜日、祝祭日
    会場:ANOMALY
    住所:東京都品川区東品川1-33-10

 

■オープニングレセプション

2025年2月1日(土)17:00〜19:00


■トークイベント
2025年2月15日(土)18:00〜19:30 

登壇者:原田裕規、卯城竜太(Chim↑Pom from Smappa!Group)


2025年3月1日(土)18:00〜19:30 

登壇者:原田裕規、西川美穂子
 
■プロフィール
原田裕規(はらだ・ゆうき)
1989年 山口県生まれ
2013年 武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科卒業(優秀賞受賞)
2016年 東京藝術大学大学院美術研究科修士課程先端芸術表現専攻修了
アーティスト。とるにたらない視覚文化をモチーフに、テクノロジーやパフォーマンスを用いて、社会や個人の本性(ほんせい)を「風景」や「自画像」のかたちで表現している。2012年に「ラッセン展」と「心霊写真展」の企画でデビューし、2013年には編著『ラッセンとは何だったのか?』を上梓するなど、議論喚起型のプロジェクトからその活動を開始。2019年以降は断続的にハワイに滞在し、ピジン英語に代表されるトランスナショナルな文化的モチーフに着目。2021年にはCG作品の制作を始め、長さが33時間あるCGアニメーション作品の《Waiting for》、日系アメリカ人の混成文化をモチーフにした《シャドーイング》などを発表している。
文化庁新進芸術家海外研修制度研修員として2017年にニュージャージーに、2021年にハワイに滞在。2023年にTERRADA ART AWARD 2023でファイナリストに選出、神谷幸江賞を受賞。2024年に日本ハワイ移民資料館に初の現代美術コレクションとして《シャドーイング》が収蔵・常設化。
 
【関連リンク】
http://anomalytokyo.com/top/

展覧会概要

出展者 原田裕規
会期 2025年2月1日(土)~ 3月1日(土)
会場名 ANOMALY

※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。

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