村越としや「灯と煙たち」©Toshiya Murakoshi
東京中野のスタジオ35分で村越としや「灯と煙たち」が開催される。
村越としやは長年にわたり、故郷である福島の風景を撮影し、継続的に作品を発表している。村越が撮影する風景は普段見過ごされがちな何でもない福島のひと場面だが、作家自身によって焼かれたプリントに残る風景はとても美しく、静かにそこに佇んでいる。
日暮れ前に撮影された薄暗い写真群から展示のタイトルが示すように、燻る灯と煙たちが鑑賞者の心にすっと立ち上がってくることを期待している。
「灯と煙たち」は2023年に福島県立美術館で発表され、2024年の木村伊兵衛賞の候補となった作品だ。東京での初展示となる。
2009年1月、年明け早々にそれまで元気だった祖母体調を崩し、入院した。
そして検査の結果、余命は3ヵ月と宣告された。
祖母が近い未来に死ぬと知らされたとき、当時東京で暮らしていた僕は出来るだけ実家に帰り少しでも写真に祖母の姿を残そうと思った。
しかし会いに行くたびに痩せて弱っていく祖母の姿にカメラを向けることは殆ど出来なかった。
季節が冬から春に変わるころ、死の宣告通りに祖母は他界した、それからお葬式、四十九日、お盆があっという間に過ぎて、実家は日常を取り戻した。
僕はその間、地元の風景をただ写真に撮り続けた、そして祖母がいなくなってからも、実家の周辺を歩き、祖母と過ごした風景に刻まれた記憶をカメラを使って少しずつかき集めるように更に写真を撮り続けた、そして2009年12月31日で撮ることに区切りをつけた。
写真の整理を始めると、少しだけ残った祖母の写真からよりも、見慣れた実家周辺を撮った写真から祖母の存在を強く感じた。
記憶というのは本当に不確かなもので、例え写真を撮り、残しても時間が経つにつれ消えていくもの、ある特定の部分だけが鮮やかに残り続けるもの、少しずつ自分の都合のよいものに置き換えられるものなど様々なように感じる。
それでも祖母を思い、歩き、撮影した故郷の小さな風景とその写真を見るたびに、祖母との思い出は美しい記憶となって、再び僕の中に蘇ってくる。
このことが僕に家族や故郷の風景がかけがえのないものだと教えてくれた、そして僕が故郷の風景へと向かう出発点になっている。
■プロフィール
村越としや(むらこし・としや)
1980年福島県須賀川市生まれ。
故郷の福島県を主な被写体に選び、人の持つ潜在的な記憶と自身の記憶、そして土地の記憶をなぞるように継続的な撮影を行う。2011年の東日本大震災以降はより重点的に福島の撮影に取り組み、写真術を用いて風景の変化と矛盾、人々の視覚的な認識の違いなどを見出だそうとしている。これまでに多くの写真集を出版し2009年には自主ギャラリーを設立するなど、写真を発表する手段、場についても意識的である。日本写真協会賞新人賞(2011年)、さがみはら写真新人奨励賞(2015年)受賞。東京国立近代美術館、サンフランシスコ近代美術館、福島県立博物館、相模原市に作品が収蔵されている。
- ■展覧会情報
村越としや「灯と煙たち」
会期:2024年11月6日(水)~12月7日(土)
時間:16:00~22:00(1ドリンクオーダー)
休廊日:日曜日、月曜日、火曜日
会場:スタジオ35分
住所:東京都中野区上高田5-47-8
【関連リンク】
https://35fn.com
出展者 | 村越としや |
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会期 | 2024年11月6日(水)~12月7日(土) |
会場名 | スタジオ35分 |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。
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