top 本と展示写真集紹介千葉雅人『灰桜』

千葉雅人『灰桜』

2024/09/24
髙橋義隆

千葉雅人『灰桜』がMasato Co.より刊行された。

 

2007年から2014年にかけて、東京と大阪の路上で出会った人々を撮り溜めた、モノクロのポートレート写真集。

 

展示が始まる。今年も蒼穹舎で。
友人の写真家Tが「千葉君ってなんで写真をジャンル分けするんかなぁ?」と言って
清水コウもそれに同意したらしい。
確かに僕はスナップ、風景、ポートレート、私写真、、そんな具合に写真を区分けしてやってきた。
Tはさらに続けて、「写真は写真じゃんねぇ?」と言ったらしい。
実はその言葉で僕の体は熱を帯びたのだ。「写真は写真」、その響きにジトっと汗を掻いた。
写真を始めた頃、よくわからないから何でも撮った。そして、何をどう撮りたいか、明確な
ヴィジョンもないから色々な被写体を、色々な距離で、そして色々なタイミングでよく撮った。
実は今写真専門学校時代に撮っていた写真をネガスキャンしているのだけれど、僕はその作業中にいつも感動している。
なんて自由なんだろう、なんて寂しいんだろう、なんて透明なんだろう、、
僕は、撮影を重ねていくうちに明確に一つの信念が生まれていく。
「顔を撮るべきだ。」
その信念が強すぎるばかり、僕は自分を結果的に制約していく事になる。
そして僕は不自由な写真家になった。
 
僕はその呪縛をどう振り払おう?ともがいていた。
その最中に僕へ投げかけられたTの言葉。
「何撮ったって写真は写真。」
それを敬愛するTから投げかけられたことも大きかったかもしれない。
「何撮っても良いのかなぁ?顔じゃなくても良いのかなぁ?
花を撮っても、人を撮っても、海を撮っても、庭を撮っても良いのかなぁ?」
僕は清水コウにそんなことを聞いた。
清水は頷いていた。
 
「灰桜」は2007~8年頃から2014年までの間、路地で出会った人たちをポートレートしたシリーズだ。
写真は僕の感じたものがそのまま表出するから面白い。
その人を僕が尊いと感じたなら、写真には尊さのエネルギーが宿る。
その人がダメに見えたら、写真に写るその人はダメに写る。
でもダメでも尊くても、僕の行う作業は一つだ。
それは彼らの心のドアを誠実にノックすることだ。
いつもいつもドアは開かない。
でも時々開くのだ。
そして開いたら何があるかと言えば、優しい陽だまりのような物がある。
でもそれも意外に普通なのだけれど。
 
僕は展示会場の始まりに、新しく作った写真集の終わりに、ある一つのフレーズを書いた。
それは撮影中ある被写体に投げかけられた言葉だ。
皆さんはこの言葉を聞いてどう思うんだろう。
出来れば会場に来て、20数枚のポートレートの前で、彼らの心のドアを優しくノックしてみて欲しいと思う。
 
心のドアを見る心の目があれば何を撮ったって写真なのだ。
写真は開かれている。

 

  • 千葉雅人『灰桜』
  • 発行: Masato Co.
    発行日:2024年7月22日発行
    著者: 千葉雅人
    編集: 大田通貴
    装丁・印刷・製本: 清水コウ
    仕様:84ページ、モノクロ75点、ドイツ装
  • 価格:3,300円(税込)

 

【関連リンク】
https://masatoco.stores.jp/items/669bb6c22753831ecd0188f5

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