加藤嶺夫『東京 消えた街角』の新装版が河出書房新社より刊行された。
本書は1999年に刊行され、2009年、2017年に続き、2024年の新装版として改めて刊行された。
著者である加藤嶺夫は1929(昭和4)年に東京で生まれた。プロフィールによると「出版社勤務のかたわら東京を散策し、新聞紙上にルポルタージュを執筆」とある。2004(平成14)年に亡くなった。「はじめに」によると、著者がカメラを手にしたのは終戦直後だが、本格的に始めたのは昭和40年代からとある。本書の掲載されている写真のキャプションに、「昭和41年〜」と記載されているものがある。1966年、東京オリンピック開催から2年後となる。
加藤は20代の頃、当時「我が国最年長の新聞記者」であった秋山安三郎の著書『東京えちけっと』を読み、秋山に興味をもって戦前の著作も探し読み漁ったという。これをきっかけに東京という場所に関心を持ち、区の資料や東京に関する写真集、文学者によるエッセイ、古地図などを収集し、読み込んで撮り始めるまでに入念な下調べを行った。
本書のキャプションを見る限り、昭和41年から平成7年まで撮影したものが収められている。つまり1966年から1995年の約30年分となる。日本におけるこの30年は高度経済成長からオイルショックによる景気低迷、バブル経済による好景気、そしてバブル崩壊後におとずれた阪神大震災とオウム真理教による地下鉄サリン事件へと至る。
その間、著者は自分のペースを保って東京を撮り続けたようだ。その視線は一貫しており、作者の思いは記録という表現となって静かだが、強く訴えてくるものがある。
奥付を見ると1999年の発行以来、2009年、2017年と続き3度目の新装版となる。前回から7年しか経っていない。写真集はそれほど売れる本ではないだろが、こうして再刊されるということは、ある一定数の読者層があるのだろう。
ちなみに本書の版元は河出書房新社である。同社の建物の目の前には、2021年に1年遅れで開催された東京オリンピックのために建設された国立競技場がある。あわせてこの周辺の土地は開発されて、かつての光景から大きく様変わりした。変わりゆく光景を目の辺りにした編集者が思うところがあって、本書の新装版をまた出そうと企画したのかどうかはわからないが、そんなことを想像しながら本書を見ると、また違った視点で見えてきそうだ。
- 加藤嶺夫『東京 消えた街角』
- 発行:河出書房新社
- 発売日:2024年6月25日
仕様:B5、240ページ
定価:3,080円(税込)
PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。