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東京都美術館で「都美セレクション グループ展 2024」が開催

2024/06/03

東京都美術館で「都美セレクション グループ展 2024」が開催される。
 
「都美セレクション グループ展」は、新しい発想によるアートの作り手の支援を目的として、当館の展示空間だからこそ可能となる表現に挑むグループを募り、その企画を実施するものだ。
 
本企画展では、応募の中から厳正な審査を経て選ばれた3グループが展覧会を実施し、絵画、写真、映像等によるさまざまな作品を展示する。
 
■Gallery A「スティル・エコー:境界の風景」
参加アーティスト/稲宮康人、笹岡啓子、新田樹、小原真史
https://stillecho.wordpress.com

 

ユーラシア大陸の東端で南北に伸びる日本列島。四方を海に囲まれた日本の国土は、時代によって幾度となく変化してきました。本展は明治期に近代国民国家として船出した日本が、隣国との国境を画定し、その後東アジアに帝国主義的な侵出を行う過程で出現したボーダーランド(境界)の風景をテーマとしています。国土は自明のものではなく、曖昧で移ろいやすい。それゆえに国家と国家の谷間に落ち込み、取り残された人々や風景があったことは、忘れてはならないでしょう。
 
稲宮康人は東アジア全域に広がった国家神道の痕跡を丹念に追い、新田樹は大日本帝国の版図の縮小にともない変容した北辺の地・樺太(サハリン)に生きる人々に焦点を当てています。また、笹岡啓子は日本列島を複雑に取り囲む海岸線と山々の有り様、そして東日本大震災以後の被災地の風景を注視してきました。
 
東京都美術館の位置する上野公園は、1877年の第一回内国勧業博覧会以降、幾度となく博覧会が開催されてきた「エキシビション・パーク」とも言える場所です。かつてここには植民地への理解や移住、投資を促すパビリオンがいくつも建ち並んでいました。その意味で、小原真史の博覧会コレクションと3名の写真家の作品とは、相互に関連しています。

 

 ■Gallery B「ずれはからずもぶれ」
参加アーティスト/ユミソン、イシャイ・ガルバッシュ、ハ・ジョンナム、イレン・トク、アリサ・ベルゲル・近藤愛助、吉川浩満
https://zure.baexong.net/index-jpn.html

 

ずれはからずもぶれ
移動 はたしてそれは自由を意味するのか?
 
2024年6月10日から6月30日まで移動や移行をテーマにした展覧会「都美セレクション グループ展 2024 ずれはからずもぶれ」を東京都美術館で行う。参加アーティストは7名。
 
第二次世界大戦中に米国の日系人収容所に収容されていた曽祖父と自分を重ねる近藤愛助、ナチスドイツに連行されドイツ各地の収容所を巡ったユダヤ人の母の足跡を辿るイシャイ・ガルバッシュ、日帝時代に朝鮮を逃れた母とロシア帝国からウクライナへのがれたユダヤ系の父のファミリーツリーを追うアリサ・ベルゲル、ユミソンの父は北と南で揺れ動く韓国のアイデンティティの確立の中で大虐殺の現場に遭遇し、ハ・ジョンナムは嫁入りとして日本から韓国へと渡った。イレン・トクは知識の集積である本の中を物理的に旅をする人々を描く。吉川浩満は膨大な書物の中の知識を横断しながら言葉をつむぐ。
 
移動には曖昧さがつきまとう。全て自分で決めたと思っている旅程にしても、そのときの個人や会社の予算や予定、時代性などが導き出した可能性の中から偶然選ばれたものだ。一時的に移動したつもりが安住の地になる場合もある。私の選択はそのようにして、目の前に開かれた可能性の中で偶然に出会ったものに過ぎない。「必ず」いかなければならない場所でさえ、その必然性は多数の偶然生の積み重ねの上に成り立っている。見えない何かが、どうしても私をここへ運んでしまうというような偶然の集積もある。
 
紙の上をおよぐ筆。絵画ならまだしも文字は必然的な動きしかしないと思うのは、浅はかな考えだろう。ストロークには無数の未来がある。一方で、文字という決まった集合体がある。識字能力がなければその集合体が同じものだったとしてもストロークに騙される。または識字能力に騙されて、自由なストロークが見えなくなっているとも言えるかもしれない。絵画が何を描いているのかを理解できるのも文字のストロークを追うのと同じ構造かもしれないし、全く別の思考回路を必要としているのかもしれない。そして絵画にしろ文字にしろストロークは集合体の必然性から逃れつづけようと苦悩する。
 
私たちは身体的にも、紙の上でも想像上でも移動を繰り返す。ときには足止めをくらう。個人的な社会的な物理的な理由によって。そしてまた放り出される。

 

■Gallery C「回遊する風景」
参加アーティスト/橋本トモコ、吉田さとし、向井三郎、和田みつひと、バックランド美紀
https://kaiyu-fukei-2024.studio.site

 

誰もがスマートフォンを携帯し、日常の風景を手軽に撮影できるようになって何年過ぎたでしょうか。世界中の風景がSNSに乗り、私たちに届けられています。しかし、真実と共に虚偽が含まれたそれらの画像は、時に分断を生む原因となって社会を混乱に陥れてもいます。そのような大量の画像に囲まれて生活する今、私たちにとっての本当の「風景」とは一体何でしょうか。
 
 本展「回遊する風景」は、海外での経験を起点として風景作品を制作している5人の作家による展覧会です。たとえば、その土地で見た自然が織りなす光と影、肌で感じた空気、土地に染みついた歴史など、自身の内部に取り込んだ様々な記憶に、私たちが生きる日本の風土を重ね合わせ、自分たちの作品へと昇華させようとしています。5人の作品に描かれているものは、誰もが見ることのできる景色です。そこに主人公は描かれていません。作品の中にあるのは、「いつ」「どこから」「何を思って」その景色を見たのかという作者の視線です。東洋と西洋、過去と現在、幻想と実存、意識と無意識といった相反する視点から対象を捉えようと試みています。異なるふたつの視点を持って作品に対峙しようとすることは、〈世界〉と〈私〉を少しでも客観的に眺め、風景を通して真実に近づきたいという作者の意思の表れといえるでしょう。
 
 この展覧会では、東京都美術館のギャラリーが持つ特異な空間を、絵画、写真、陶、スライドインスタレーションなど、それぞれの手法で制作された5人の風景で構成します。回遊魚が大海を巡ったのちに故郷の河川に戻るように、作者の記憶にある風景がそれぞれの心の真ん中を通過し、新たな風景として見る人の胸に届くことを願っています。
 
回遊する風景実行委員会
代表 橋本トモコ

 

■展覧会情報
「都美セレクション グループ展 2024」
会期:2024年6月10日(月)~6月30日(日)
時間:9:30~17:30(金曜日は20:00まで/入室は閉室の30分前まで)
休廊日:6月17日(月)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・B・C
住所:東京都台東区上野公園8-36
 
【関連リンク】
https://www.tobikan.jp/exhibition/2024_groupshow.html

展覧会概要

会期 2024年6月10日(月)~6月30日(日)
会場名 東京都美術館

※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。

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