top 本と展示写真集紹介大西みつぐ『TOKYO EAST WAVES』

大西みつぐ『TOKYO EAST WAVES』

2024/05/09
髙橋義隆

『TOKYO EAST WAVES』には、木村伊兵衛写真賞作家・大西みつぐ(1952〜)の、1980年代後半から1990年代初頭にかけて、東京東部とその近郊の街をスナップした3つのシリーズが収録されている。
 
第22回太陽賞受賞作「河口の町・江東ゼロメートル地帯84」(1985)は荒川と中川の河口付近を、第18回木村伊兵衛写真賞受賞作「周縁の町から」(1992)では、千葉県北西部から埼玉南部などの東京近郊の都市に足を伸ばし撮影。そして「NEWCOAST」(1995)は、自身が江戸川区臨海町に居住を移した後、東京湾岸を舞台に撮影している。
 
いずれも中判カメラ「マキナ670」を使用してカラーのポジフィルムとネガフィルムで撮影されたものだ。これらはモノクロームのシリーズ「WONDERLAND」と同時並行して制作された重要な作品群で、写真集として初めて出版される。
 
バブル景気という奇妙な時代における市井の人々の生活と振る舞いが、同時代の一員でもあった大西によって、克明に記録されている。
 
2023年に日本写真協会学芸賞を受賞した写真家・ライターである大山顕氏によるテキスト「“片目の犬” マキナ670」と、戦後日本が生んだ、優れたドキュメンタリー写真作家である土田ヒロミ氏によるテキスト「大西みつぐの断腸日記」を収録している。

 

■アーティスト・ステートメント
東京の東の一番端っこにある臨海公園から東京湾を飽きもせず眺めていることが多い。左の対岸には広大な「東京ディズニーリゾート」の施設がよく見える。ここは千葉県船橋の「三番瀬」のような遠浅の海であるため、大潮の時には広大な干潟が広がり東京とは思えない風景ができ、まるで地続きであるかのような「王国」が誕生する。反対に潮が満ちている時には短い波が彼方から繰り返し押し寄せ、それらは不思議な静けさを伴い、そのまま都心へと続くかのような余韻を残し、黙って海を見つめている私の身体を容易に越えていく。その度、私はまだ1980年代のそこにいるのではないかという妙な錯覚に陥ってしまう。
「バブル」へと続く時代の東京とその近郊。当事者でありながら通過者になりきることの後ろめたさを覚えながらカラーフイルムによるスナップショットを続けていた。今、それらの写真を見ると、なんともいえない「気だるさ」と「物悲しさ」のような人と風景の交わりが垣間見えてくる。不思議な時代だったとも思えるが、時代のドキュメントとして綿密に記録していこうという意図もなく、自分の日常を照らしつつ淡々と「マキナ670」のシャッターを押していた。しかるにカラー写真群が少しも懐かしくないのは、これらの「出来事」が今の「東京」にきれいに重なってくるからだろう。
2024・3 大西みつぐ

 

大西みつぐ『TOKYO EAST WAVES』

発行所:ふげん社

発行日:2024年3月20日

寄稿:大山 顕、土田ヒロミ

デザイン:宮添浩司

仕様:A4変型(280×200mm) 、144頁、PUR並製本、ビニールカバー

定価:6,600円(税込)

 

【関連リンク】
https://fugensha-shop.stores.jp/items/65f16cfcb6945904bf1efd58

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