top 本と展示写真集紹介山崎 茂『東京下町景』

山崎 茂『東京下町景』

2024/05/27
髙橋義隆

2024年1月、指名手配中の東アジア反日武装戦線のメンバーであった桐島聡が、末期ガンの病床で本人であることを名乗り、亡くなった。1974年、東アジア反日武装戦線は東京有楽町にあった三菱重工本社ビルに爆弾を仕掛け、8人の死亡者、多数のけが人を出す大惨事をもたらした。その後も企業を標的にした爆弾事件を起こしたが、最初の三菱重工での事件がもっとも被害が大きかった。アジアを植民地として侵略した自分たちの親にあたる世代の日本に憤り、今度は資本経済でもってアジア人を搾取する姿勢に怒りを覚えた結果の行動であった。ちなみに桐島は三菱重工の事件には関わっていなかったらしく、その後の爆弾事件に関与していたという。
 
三菱重工爆破事件の主犯格である大道寺将司は逮捕され、裁判で死刑判決となったが、収監中の2017年に亡くなった。彼が刑務所内で読んだ本に松下竜一の『豆腐屋の四季』があった。彼はこの本に感銘を受け、感想をしたためた手紙を松下に送ったという。それから松下と大道寺の交流が始まった。
 
松下は大分県で家業の豆腐屋を引き継ぎ、その傍らで『豆腐屋の四季』を書いた。この本が当時ベストセラーになり、テレビドラマになった。これをきっかけに松下は豆腐屋を廃業し、執筆活動に専念する。松下は大道寺らとの交流を得て、東アジア反日武装戦線をテーマにした『狼煙を上げよ』を書いた。彼らにシンパシーを感じつつも批判的な意見も述べ、松下の心情もまた引き裂かれていたのではないかと思う。その松下もすでにこの世にいない。
 
『東京下町景』は1974年から1977年に撮影された写真で構成されている。ここにある素朴な東京の生活がある一方で、すぐ近くで爆弾テロもあった。もしかしたら大道寺らが本当に求めていたのは破壊的なテロルではなく、この写真集にあるような貧しいながらも慎ましい生活だったのではないだろうか。『東京下町景』を見ながら、ふとそう思った。

 

  • 山崎 茂『東京下町景』
  • 発行:蒼穹舎
  • 発行日:2024年2月25日
  • 編集:大田通貴 
    装幀:加藤勝也
  • 仕様:B5変型、上製本、モノクロ132ページ、作品126点、300部
    価格:4,000円+税

 

【関連リンク】
http://www.sokyusha.com/detail/pg5293001.html

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