梁丞佑(ヤン・スンウー)の『TEKIYA 的屋』は2022年に刊行された。『新宿迷子』や『人』以降モノクロからカラーへと以降しているが、その姿勢は変わることない。
あとがきによると喰うに困っていたとき、韓国人留学生向けの求人サイトに「屋台で簡単な食べ物を売る」仕事が紹介されていた。電話をして現地集合するとそこは花火大会の会場。的屋だったという。仕事は唐揚げ作りだった。初めての揚げた唐揚げは祭りが始まる前に完売した。「天職かと思った」。
だが続けていくうちに苛酷な肉体労働である現実に直面する。それでも仕事の合間をぬって撮影することは欠かさなかったが、カメラを手にするまで1年かかったという。梁の粘り強さはここでも発揮されたようだ。そして写真を撮ると同時に「広島風お好み焼きと焼きそばの達人になった。」という。そのしたたかさは尊敬に値する。
写真には祭りの場で開店する的屋とその周辺にいる人を中心に撮影している。その立ち居や刺青をした体を晒しているところや、杯を交わす儀式などを見る限り、いわゆるやくざであることは伝わってくる。
一言でやくざというが、その源流は二つある。ひとつは本書にある的屋をルーツとしたものと、もうひとつは賭け事を専門とする博徒系である。いずれもハレの場であり、それを取り仕切っているのが社会の外側で生きる人々であった。ここに芸能が入るのは当然である。
日常とは離れた領域を生業とする彼らは、カタギでないことを誇示するために、身体に刺青をいれることで差異化する。その中でカメラを持つ梁丞佑のまた、社会の外側に位置して、写真という手段でもって自らの存在を示している。本書はパーソナルなドキュメントであると同時に、現在の日本にあるハレの場の光景を捉えた貴重な記録でもある。
それにしても梁さんが撮る写真は傑作ばかりだ。
- 梁丞佑『TEKIYA 的屋』
- 発行:ZEN FOTO
- 発行年:2022年
- 仕様:210×297mm、144頁、掲載作品141点、ソフトカバー・ケース付
- 価格:6,800円(税込)
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