top 本と展示写真集紹介鈴木敦子『APPEAR』

鈴木敦子『APPEAR』

2024/01/25
髙橋義隆

巻物という形状は現在では滅多に見ない。だからこそこの形での印刷物は新鮮だ。
 
日本においてイメージとメディアの形を振り返ったとき、巻物という形式は馴染みのあるものだ。とくに絵巻物は歴史学や民俗学の分野において重宝され、書かれた時代の様相や風俗を知るに最適な資料である。
 
室町時代の僧侶である一遍を描いた絵巻物には、彼の人生と同時に当時の生活状況を伺い知ることができる。後世の誰かが一遍という特異な僧侶(師)の生涯を残そうと思って描いたのかもしれないが、言葉でなく絵というのが興味深い。当時の仏教僧が扱う言語は中国由来の漢文であろう。これにはある程度の学習と教養が求められる。多くの民衆にはそこまでの読解力はなかったはずだ。だから僧侶は各地を歩き、平易な言葉でもって仏教の教えを広めてきた。中には面白おかしく話したこともあるだろう。一遍は踊りながら念仏を唱えた。小難しい講釈を垂れるより、踊り歌いながら念仏を唱えれば、内容の是非はともかく、これを聞いた民衆も一緒になって踊り歌ったかもしれない。
 
鳥獣戯画もそうだが、巻物はマンガ的でも映画的でもある。デジタルカメラがあたり前の今にあって、フィルムそのものがすでに過去の遺物になっている。フィルムもまた巻物であり、かつての映画はリールに巻かれたフィルムが回転し、連続するコマがスクリーンに映されていた。物質的な側面から見れば、映画とは回転するフィルムのことだったともいえる。
 
『APPEAR』で表現されている写真は感覚値の高い、刹那的なイメージで構成されている。中世の絵巻物のような直接的な物語性はないが、一見関連性のないイメージ同士が並ぶことで、異化作用を起こし、見る者の想像力を刺激してくる。作家および作品に関しては巻末で伊藤貴弘氏(東京都写真美術館 学芸員)が書かれた解説が優れており、筆者のような凡庸ものが口を挟む余地はないので、ぜひ最後まで捲ってお読みいただきたい。

 

  • 鈴木敦子『APPEAR』
  • 価格:3,850円(税込)
  • 発行:edition.nord 2023年

 

【関連リンク】

https://atsuko-susuki.tumblr.com

https://www.flotsambooks.com/SHOP/PH05988.html

関連記事

PCT Members

PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。

特典1「Photo & Culture, Tokyo」最新の更新情報や、ニュースなどをお届けメールマガジンのお届け
特典2書籍、写真グッズなど会員限定の読者プレゼントを実施会員限定プレゼント
今後もさらに充実したサービスを拡充予定! PCT Membersに登録する