作者は1991年生まれ。武蔵野美術大学造形学部映像学科を卒業。2013年に新宿ニコンサロンで展示した「Rheological Landscape」以降、風景を主題にして作品を発表している。2017年に初の写真集『LANDSCAPE PROBE』(蒼穹舎刊)を発行。本作『Heliotropic Lancscape』は6年ぶり2作目の写真集のとなる。
前作『LANDSCAPE PROBE』が郊外あるいは住宅地とおぼしき場所で、建物とその周辺にある自然物が渾然としたような趣きの状況を選んで撮影していた。本作では一転して人工物はなく、森あるいは山林地のような場所を中心にして、うねるように伸びる木の枝やその周りに群生する葉が写真の中を覆い尽くしている。
制御されずに伸び続ける木の姿は暴力性に満ちて、禍々しさすら感じる。白昼に撮影されているためか太陽の光の下で晒された樹木たちは、あるがままに凶暴性を発揮し、秩序など端から放棄しているようだ。
写真が誕生して以降、風景は主要な被写体としてあり続けている。絵画においても風景は重要な主題であり、文学においてもまた同様だ。だが絵や文章で風景を再現するとき、どう描写するか作者の主観と解釈が求められてくる。しかし写真の場合、その再現性の高さから絵や文章ほどのテクニカルさは求められない。だが、画面の中にどう収めるかフレーミングの選択が求められる。むろん、四角い画角の中に構成することは、簡単なようでいてけっして容易ではない。ここに写真行為の難しさがある。
『Heliotropic Lancscape』において作者は剥き出しの樹木たちを相手にして、理性の目でもって写真の画角に収めている。予測できない方向へ伸びる木の枝は一見混沌としているように見えるが、樹木には樹木の論理があるはずだ。カメラをもってファインダーを覗き、フレームを決定することも、写真装置という機械を扱う人間の目の論理によって為される。つまり互いの論理が対峙しあうという解釈も可能である。
「世界は論理的空間における事実の総和である」と『論理哲学論考』の冒頭でヴィトゲンシュタインは書いている。『Heliotropic Lancscape』はまさしく論理的空間で展開される風景のありようを表出している。
- 寺崎珠真『Heliotropic Lancscape』
- 定価:5,000円+税
発行:2023年11月7日
仕様:350部、B4変型、上製本、カラー70ページ、作品56点
編集:大田通貴
装幀:加藤勝也
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