書名にある『コンルコタン』とは、コンル=氷、コタン=町、集落という意味のアイヌ語だと、あとがきに著者は書いている。本書はタイトルの意味が示すように、雪に覆われた北の地を主題にしてまとめられている。
仕事で北海道に訪れた著者は函館本線に乗り、札幌から小樽へ向かう途中の銭函駅を通り過ぎると「突然という感じで海が現れた」という。眼前に広がる景観が白から深い青に変わった瞬間、この場所でもっと撮影したいと思い、日を改めてこの場所を再訪した。以来北の地を写真に収め続けた。
白い雪に深い青が覆い、凍えた空気の感触が伝わってくる。時折登場する赤い炎や飲み屋の灯りなどを見ると、ささやかな安堵を覚える。もちろんこれは本であり、印刷されたものであるから温度が伝わってくることはない。だが人は色彩でもって空気の質感までも感受することがある。先入観もあるかもしれない。しかし色によって人は状況や心理状態も影響されてくるのは事実だ。
本書を見ると、肌が凍える感じがしてくる。かつて北海道開拓団を記録するために同行した田本研造は、明治初期の北海道を撮影していた。その寒さは今よりも厳しかったかもしれない。だが、150年前のイメージは寒さというよりも、色彩のないイメージは歴史的な側面が先行して理性が勝り、体感はそれほど意識されない。
『コンルコタン』に展開する色彩、それがもたらす感覚を考えたとき、もし田本がこの写真を見たら、驚きと妬心を覚えるかもしれない、と想像した。
- 佐藤圭司『コンルコタン』
- 発行:RED Photo Gallery
- 仕様:270×225mm、88ページ、ソフトカバー
編集・制作・デザイン:Kiezine、Sasawan
印刷・製本:株式会社イニュニック
価格:4,400円(税込)- ※展示期間中限定特別価格:4,000円(税込)
【関連リンク】
https://photogallery.red/schedule/2023/20231113/exhibition.php
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