秘宝館はといわれる施設がかって日本の観光地に存在し、時代の変遷とともに建物自体もなくなり、現存するのもわずかだ。そもそも秘宝館とは何であろうか。本書のプレスリリースにこう書いてある。
- 空前の観光ブームのなか1970年代~観光地に誕生したオトナの娯楽施設「秘宝館」。
斬新奇抜な創造力が溢れる、それぞれの館の演出は現代においても新鮮に映る
昭和という時代が生んだ性のアミューズメントパークは、アート空間のようだ
秘宝館のその後を追った、2023年に取材した写真、原稿も掲載。
エロとグロをテーマとした秘宝館は、本書の写真にもあるように人体模型を作り、人間のセクシャリティをあらゆる方面からアプローチして、見世物として展示している。中には地獄の風景もあり、キッチュさを最大限に表現した空間だったといえよう。
かつて日本では1920年代後半から1930年代前半の昭和初期に、エログロナンセンスが流行していた。浅草などの盛り場を中心にそうした見世物があり、江戸川乱歩や夢野久作が小説を執筆していた時期だ。太平洋戦争に入る直前、すでに中国への侵攻が行われた時代に、国内では過激で歪な表現が流行していた。戦後、それまでの統制が徐々に解放されていくとやはりエログロは流行し、こうした内容を扱ったカストリ雑誌などが出版された。
秘宝館がどういう経緯で誕生したかは、わからない。ただ見てはいけないものを見たいという欲求は、連綿と続いていた。文化は表や地上だけでなく、裏や地下でも育まれ、寧ろより高いイマジネーションが求められていた。いや、想像の産物としてこれほど豊かなものは稀かもしれない。
『秘宝館』の中で都築はこう書いている。
本書に登場する秘宝館のほとんどはもう存在しないし、たぶんここでしか写真すら見られない秘宝館もある。
子どもがオトナになるくらいの、ほんの少し前に、日本人がこんなにヘンな場所をつくって、それが裏観光名所として賑わっていた時代があったこと。
それを恥ずかしく思うか、楽しく思うかで、僕らの国を見る眼差しはずいぶん変わってくるはずだ。
秘宝館を楽しめる目を、人は忘れてはいけないと思う。この眼差しを否定したら実につまらない世の中になってしまうだろう。
- 都築響一『秘宝館』
- 定価:2,530円(本体2,300円)
著者:都築響一
アートディレクション:軸原ヨウスケ(COCHAE)
デザイン:菅野沙耶(COCHAE)
翻訳者:Andreas Stuhlmann
言語:日英併記
判型:A6
総頁:448頁
製本:並製
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