奇妙かつ不思議な写真集である。最初の写真を見たとき、どこかヨーロッパの街かなと思い、ページを捲るうちに違和感を覚え始める。なにかおかしい。なにかがおかしい。奧に日本語の看板があるが、手前の光景はどう見ても外国の街である。ずれというか、混じり合っている。どうやらここにある写真は異なる場所と場所が融合されているようだ。
あとがきを読むと作者はコロナ禍の中、外に出られない日々の中でかつて撮影した場所をパソコンのモニター上で眺めていくうちに〈目の前の「今」の景色を透かし見ながら「過去」を追体験する、空想の旅を紡いでみようと思いたった〉という。
モニター上でかつて見た光景を重ねていくうちに〈思いがけない場面で交錯し、静かな共鳴を起こしながら重なり、まるで夢で見たような不思議な風景となっていった〉と書いている。この一文を読んだとき腑に落ちた。落ち着かないこの感覚は、夢を見たときのそれに感触が近い。
夢は突飛な光景を展開することがあるが、見ているこちらは特に驚きもなく受け入れる。それでも何か違和感を覚えることもあるが、それが夢だからなのかもしれない。夢は人間の脳にある視覚領野で生成されていると言われる。この領域は眼球を通して見える世界を構成する箇所でもある。つまり覚醒しているときに眼球を通して見る光景と、夢の中でみる光景は、同じ領野で作られている。私たちが現実と呼ぶものと眠りの中でみるものは、同一であるともいえる。また夢を見るのは睡眠時に身体が弛緩している際に、脳の活動をリセットするためともいわれている。
そう考えると『over the window』にある写真もまた、これまでの光景をリセットするために生成された夢の場面だと解釈することもできる。それは文字通り窓の向こうにある世界なのであろう。
- サトウヒトミ『over the window』
- 発行:PURPLE
- 発行月:2023年9月
- アートディレクション:榊原健祐
- 判型:H182mm ×W257mm、64ページ、糸綴じ
- 定価:3,800円+税
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