作者の川崎祐は1985年滋賀県生まれ。2017年に第17回写真「1_WALL」でグランプリ受賞。2019年に赤々舎から『光景』を刊行。本作『未成の周辺』は2作目の写真集となる。前作で自らの家族と周辺の光景を既存の文脈から逸脱させることで、従来の家族写真や地方の光景を批判的に捉え直した作品であった。翻って本作は和歌山県新宮市を中心にしている。
本作は2つの方法でもって風景を捉えている。ひとつは聖地とされる熊野の虚飾性を排し、郊外の様相を呈した場を捉え、もうひとつでは路面バスの車窓から熊野の風景を撮り、移動中の揺れや突発的なフレーミングのずれを許容している。従来良しとされる風景ではなく、ずれや凡庸な光景をあえて選んでいるところに本作の主題が現れているようだ。
新宮市の熊野と聞けば、中上健次を想起する。寄稿している倉石信乃も言及しているが、作者は中上を意識していたであろうか。中上は秋幸シリーズの3作目『地の果て至上の時』で、路地が開発のために破壊されていく風景を描写し、父を殺すことによって路地とも訣別することになる。その後中上は『日輪の翼』で路地に取り残されたオバたちを大型トレーラーに乗せて、聖地巡礼の旅にでる。本作の車窓からのイメージから『日輪の翼』が想い起こされたが、むろん作者が意識していたかどうかはわからない。
地方の風景が破壊され、均一化していくイメージでいえば、富田克也監督の『空の上』や『サウダーヂ』でも映像化されており、富田監督が中上から影響を受けていることを考えると、『未成の周辺』と比較してみるのも興味深い。
作者が次に取り組むのは、中上作品で位置する『讃歌』か『軽蔑』だろうか。もしくは『千年の愉楽』『奇蹟』の系統か。気が早いが次作がどう展開するか興味深い。
- 川崎祐『未成の周辺』
- 発行:喫水線
- 発行日:2023年9月1日
- 寄稿:倉石信乃、川崎祐
- 協力:鈴木理策、篠田優
- 装丁:岡田和奈佳
- 校閲:宇田川賢人
- 印刷・製本:日本写真印刷コミュニケーションズ株式会社
- プリンティングディレクション:渡辺穣
- 進行:吉田真治
- レタッチ:株式会社 Sun-Prism
- 定価:7,700円(税込)
- 仕様:270mm×210mm、ソフトカバー、並製本 158ページ、400部限定
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