top 本と展示写真集紹介清水哲朗『トウキョウカラス』

清水哲朗『トウキョウカラス』

2023/10/04
髙橋義隆

2020年4月のコロナ禍によって世界中がロックダウン状態となり、国内のみならず海外への渡航がしばらく禁じられたことは記憶に新しい。移動制限は誰もが影響を被ったが、写真家はとくに大きなダメージを受けたであろう。清水哲朗も例に漏れず、モンゴルでの撮影をライフワークとする彼にとって、苛立ちの募る日々であったようだ。だが彼はじっとすることなく、東京都内で撮影をしていた。しかも対象がカラスであった。20代の頃にもカラスを撮影して個展を開催していたこともあり、コロナがきっかけとなって再開することになった。
 
本書は2020年11月から2023年3月まで撮影されたもので構成されている。都内各所で撮影されアングルも寄りもあれば引きの構図もあり、カラスの肖像だけでなく、場所と時代を意識したようにも受け取れる。あとがきでも書いているが、直近でカラスをテーマとした写真作品は意外と少ない。深瀬昌久の『鴉』があるが、深瀬の場合、カラスに自分の姿を投影したようなところもあり、私小説の趣きが強い。対して清水の『トウキョウカラス』はドキュメント性を重視し、タイトルにある通り東京に棲息するカラスと2020年から23年という、忘れることのできない時代を背景としている。
 
鳥類学者の樋口広芳が寄稿している中でも書いているが、たしかに東京にはカラスが多い。都内で生活していると、カラスの姿と鳴き声を聞かない日はないくらいだ。黒い彼らの姿を見ると、東京という人口空間の中で共存というよりも、隙を狙っては獲物を奪うようなしたたかさを覚える。以前、カラスがマネヨーズの容器を咥えて、それを電線に引っかけ、ぶら下がっている光景を見たことがあるが、なんとも奇妙な場面であったことを記憶している。
 
本書の中でもカラスが生ゴミを貪る光景がある。その姿を見たとき、生きぬくためには時に容赦なく実行することも必要なのかもしれないと、教えられた。

 

  • 清水哲朗『トウキョウカラス』
  • 出版社:ulus publishing
    発売日:2023年9月25日
    判型:210×25×255mm・240ページ
  • 価格:10,560円(税込)

 

【関連リンク】
https://note.jp.omsystem.com/n/n25687a3ad682

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