野村佐紀子『月夜』は同じ版元であるリブロアルテから刊行されている金村修の『TOMBSTONE PILE DRIVER』と同様、同じ体裁の造本となっている。シリーズなのだろうか。だが金村同様に野村の写真もひと目見れば、すぐに野村佐紀子の写真であるとわかる。
男性のポートレート、花、スナップが淡々と並んでいる。中綴じ冊子でページ数にして32ページとわずかだが、限られた中で作品世界が濃縮されたように見応えがある。
野村佐紀子の写真は饒舌である。それも静謐な饒舌とでもいうような小声で、写真それ自身が見るものに語りかけてくる。ポートレートも花もスナップも、すべてが同様に並び、差異なく展開している。そして、一枚一枚のイメージが耳元で囁くように語りかけてくるようだ。その内容は見る人によって異なるであろう。だからひとつの語りはなく、幾通りの語りが存在している。
私たちはいつから正解を求めるようになったのだろうか。いつから0か1の二択になったのであろうか。写真は0と1の間にある無数の小数点の中を漂っている。その中を彷徨いながら、豊穣なイメージを受けとめ、感受する。野村の写真もまた0と1のあわいの中に存在する。それを0にするも1にするも受け取り側が決めることだ。
作者は語らない。だが写真は語る。その語りは受け取る側に委ねられる。『月夜』のページを捲るとき、イメージから発する語りに我々は耳を傾け、自身の言葉へと変換させてくれるだろう。
だが写真から導かれた末に書かれた言葉がいかに陳腐か、凡庸な筆者の書いたこの文章が証明している。
- 野村佐紀子写真集『月夜』
- 発行:リブロアルテ
- 発売年:2023年
- 判型:280×210mm、32ページ+カバー、中綴じ
- デザイン:伊野耕一
- 予価:4,400円(税込)
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