top 本と展示写真集紹介金村修『TOMBSTONE PILE DRIVER』

金村修『TOMBSTONE PILE DRIVER』

2023/10/16
髙橋義隆

本書の作りは中綴じ製本に変型折りのカバーで構成されている。写真はトリミングされ、誌面一杯に写真が印刷されている。各写真の撮影データはないが、これまで通り6×7カメラで撮影されたものであろう。フレームの中は街にある建物、電線、鉄骨、看板などで隙間なく構成されている。これもまた金村が撮ってきた作品の流れにあるが、なぜか飽きることなく見てしまう。すでに芸域に達しているということだろうか。
 
この作品集の中で、現像に失敗したフィルムを引き延ばした写真がある。現像のときに光が被ったのか、どういう経緯で発生したのかわからないが、常識的に見れば失敗したネガである。このページを見たとき、写真とは〈もの〉であることを再認識させられた。
 
金村は2019年に埼玉県立近代美術館で開催された「DECODE/出来事と記録─ポスト工業化写真の美術」で小松浩子と参加していたが、この展示は1960年代後半に勃興した「もの派」の作品、特に関根伸夫を中心に紹介していた。このとき金村はロール紙で印画したものを壁から床にかけて敷き、無造作な装いで展示されていた。このとき、ここにあるのはイメージが転写された紙の束、と直感した。イメージに実体はない。これを転写する装置があり、支持体となる物質が必要となる。道具や媒体を経由して写真はその姿を現す。だがこの写真を還元すれば、ただの紙であり、物質である。フィルムもまた物質であり、焼き付けられた像は転写されたものに過ぎない。すべては〈もの〉によって成り立っている。失敗したネガを印刷されたページを見たとき、ふとそんな考えがよぎった。
 
そしてこの本もまた〈もの〉に過ぎない。写真は存在しない、ただ〈もの〉がここにあるだけだと、言われているような気がしてならない。

 

  • 金村修写真集『Tombstone Pile Driver』
  • 発行:リブロアルテ
  • 判型:280×210mm、32ページ+カバー、中綴じ
    デザイン:伊野耕一
  • 予価:4,400円(税込)

 

【関連リンク】
http://www.libroarte.jp/tombstonepiledriver.html

関連記事

PCT Members

PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。

特典1「Photo & Culture, Tokyo」最新の更新情報や、ニュースなどをお届けメールマガジンのお届け
特典2書籍、写真グッズなど会員限定の読者プレゼントを実施会員限定プレゼント
今後もさらに充実したサービスを拡充予定! PCT Membersに登録する