top 本と展示展覧会ピックアップ武蔵野美術大学 美術館・図書館で「生誕100年 大辻清司 眼差しのその先 フォトアーカイブの新たな視座」が開催

武蔵野美術大学 美術館・図書館で「生誕100年 大辻清司 眼差しのその先 フォトアーカイブの新たな視座」が開催

2023/09/16

武蔵野美術大学 美術館・図書館で「生誕100年 大辻清司 眼差しのその先 フォトアーカイブの新たな視座」が開催される。
 
武蔵野美術大学では、写真家大辻清司(1923–2001)が残したプリント、撮影フィルム、作品掲載誌や蔵書などから「大辻清司フォトアーカイブ」を構成し、15年にわたって研究を重ねてきた。本展では、研究の軌跡、とりわけ撮影フィルムの内容の精査によって得られた視座を軸に、大辻清司の真髄に接近する。作品として制作されたオリジナルプリントとともに、フィルムに残されたまま未発表だった作品を多数展示する本企画は、アート・アーカイブ活用の在り方、その先に何を見出すことができるのかを模索するひとつの試みでもある。
 

  • ■本展の概要
    戦後日本の前衛芸術グループ「実験工房」や「グラフィック集団」のメンバー、美術・音楽・演劇・ダンス・建築にわたる同時代の多様な動向に立ち会い、ドキュメントを撮り続けたカメラマン、『アサヒカメラ』『カメラ毎日』などの誌上で独自の視点から才筆をふるったエッセイスト、写真教育の前線で多くの後進を育てた教育者—大辻清司(1923〜2001)は、諸分野で確かな功績を残しながら、たゆみない探究心のもと実験精神溢れる写真表現を追究し続けた写真家だ。一方で、大辻の仕事は幅広く多面的な様相を見せたがゆえに一言では捉え難く、生誕100年を迎えた現在でもなお、その表現の本質を探る可能性を秘めた存在だといえる。
     
    武蔵野美術大学では、大辻が半世紀にわたって制作したプリント、撮影フィルム、蔵書、直筆の制作メモや原稿などにより「大辻清司フォトアーカイブ」を構成し、2008年の寄贈受入より整理・研究に取り組み続けてきた。作品そのものと周辺資料の包括的な検証によって制作過程を追うことは、写真家が何を見つめ、どのように対象に迫ったのか、その関心の在りどころと思考を明らかにする重要な足がかりとなる。なかでもフィルムに記録された撮影コマの連続からは、作品の背景にある試行の跡や、被写体との間に醸されていた機微までもをうかがうことができる。
     
    本展では、これまでのアーカイブ資料検証によって得られた視座を軸として、「原点」「シアター」「シークエンス」「他者たち」からなる四つの章によって、大辻清司とはいかなる表現者だったのか、その真髄へと迫る。オリジナルプリントと撮影フィルム上の未発表作品、印刷メディアでの仕事や執筆テキスト—多彩な広がりを見せた写真家の実践の数々を、互いに連関しあうものとして捉える構成は、本展を特徴づけるものといえるだろう。また、フィルムに残された多くの知られざる作品に光をあて展観することは、アーカイブ活用の大きな試みになる。本企画は、新たな大辻像の輪郭を辿るとともに、アート・アーカイブのひとつの在り方を示し、その先に何を見出すことができるのかを探る行程の一歩でもある。

 

  • ■本展の構成
    Ⅰ 原点
    大辻清司は、10代の頃に雑誌『フォトタイムス』に掲載された前衛的な写真表現に衝撃を受け、制作を開始する。本章では、瀧口修造との出会いのもと発表をおこなった《太陽の知らなかった時》全10点をオリジナルプリントとフィルム原板からの高精細印刷によって甦らせるほか、物体とその肌理へ眼差しを注いだ《氷紋》《航空機》《黒板塀》などを通し、大辻の初期の探究へと着目する。また実験工房、グラフィック集団といったメディアを横断する表現者たちとの交流もこの頃より始まった。阿部展也、福島秀子、田中敦子らと対峙した作品のほか、『アサヒグラフ』で連載された《APN》シリーズを紹介する。
     
    Ⅱ シアター
    1950年代から60年代にかけて、大辻は『芸術新潮』をはじめとする印刷メディアでの取材を通して、数々の演劇や舞踏、パフォーマンスの舞台やリハーサルを撮影した。武智鉄二(「月に憑かれたピエロ」「アイーダ」)や福田恆存(「明暗」「マクベス」)といった気鋭の演出家の手による舞台、土方巽の舞踏作品「禁色」、アートとテクノロジーの結合を目指した音楽イベント「クロス・トーク/インターメディア」ほか、パフォーミングアーツの現場を捉えたスナップの数々は、貴重なドキュメントであると同時に大辻の優れた写真表現を体感できる作品群といえる。舞台上の人物の息づかいまで感じさせるようなこれらの作品を臨場感ある展示によって紹介するとともに、代表作《無言歌》を「シアター」という文脈のなかで展観し、その情景に新たな光を当てる。
     
    Ⅲ シークエンス
    さまざまな存在が通過し、交叉する流れを捉えた「シークエンス」は、1960年代末頃からの大辻の制作を特徴づけるひとつのキーワードだ。東京ビエンナーレ‘70「人間と物質」では、作品設営日から会場を歩きまわり、変化を続ける状況をスナップショットの連続によって捉えた。同展は、アルテ・ポーヴェラ、コンセプチュアリズム、もの派など当時最も新しかった美術の諸動向に関わる計40名の作家が出品し、本章ではそのなかからヤニス・クネリス、マリオ・メルツ、ジルベルト・ゾリオ、松澤宥の四名による展示空間を撮影した作品に絞って紹介する。
     
    あわせて、身近な街の路上へとレンズを向け、道行く人々とその流れを捉えた作品《界隈》や《道》、実験映画「上原二丁目」などを展示します。「上原二丁目」は、16ミリ動画フィルムで自宅近くの路上を定点からワンカットの長回しによって撮影した映像作品。奥行きをもった画面構図のなか、個々のリズムで現れ、横切っていく他者の様子を見つめた本作は、大辻の代表作のひとつといえる。
     
    Ⅳ 他者たち
    1975年の一年間『アサヒカメラ』誌上で連載をおこなった「大辻清司実験室」は、自身の写真と文章によって構成された作品だ。本作は、優れた写真家でありエッセイストである大辻の重要な仕事と位置付けられる。本章では「大辻清司実験室」から、身近な路上を写した一連のスナップ群《日が暮れる》、机上の事物を見つめた作品《いつも二つ、机の上にある鉱石標本》《まるめた紙》などに加え、《ひと函の過去》《見えぬ意味を見ぬ意味と》といった70年代後半から80年代の作品もあわせて展示する。撮ることと書くこと、そして「写真は何を写しとるのか」という問いに改めて向き合った大辻の探究に焦点を置く。

 
「大辻清司フォトアーカイブ」について
大辻清司の自宅アトリエに残されていた写真プリント、その原板を含む撮影フィルム、作品掲載誌や蔵書、実際に使用していた撮影機材や暗室道具など、大辻の創作活動をほぼ網羅する資料群で構成する当館所蔵の特別コレクション「大辻清司フォトアーカイブ」。2008年の寄贈受入より整理に着手し、適切な資料保存環境を整えたうえで、検証・研究・活用をおこなってきた。その成果を、展覧会「大辻清司フォトアーカイブ:写真家と同時代芸術の軌跡1940–1980」(2012)の開催や、所蔵する写真プリントのうち1,613点を収録する目録『大辻清司:武蔵野美術大学 美術館・図書館 所蔵作品目録』(2016)の発行などで公開・発信してきた。2017年からは『大辻清司アーカイブ フィルムコレクション』と題し、撮影フィルムの内容を検証する目録シリーズの刊行を開始し、現在までに7巻の発行にいたった。「大辻清司フォトアーカイブ」は、幅広い分野の研究者や専門家とともに、さまざまな観点から研究が深められていくことを目指す。
 
■プロフィール
大辻清司(おおつじ・きよじ)
写真家。1923年東京生まれ。1940年代末にシュルレアリスムからの影響を色濃く窺わせる写真作品《いたましき物体》を発表し創作活動を開始。1950年代にはインターメディアの前衛芸術グループ「実験工房」に参加。さまざまな芸術ジャンルのアーティストと交流し、20世紀末まで約半世紀にわたり制作と思索の営みを続けた。同時代芸術の貴重かつ膨大なドキュメントを撮影したことでも知られる。長年携わった写真教育の場でも重要な業績を残し、高梨豊、潮田登久子、牛腸茂雄、畠山直哉をはじめ多くの優れた才能を見出し、世代を超えて感化を及ぼしあった。また、写真というメディアの特性と新しい表現への可能性を考察した優れたエッセイを数多く執筆。主著に『写真ノート』(美術出版社、1989)。代表作に《陳列窓》(1956)、《無言歌》(1956)、《東京むかし》(1967)、《日が暮れる》(1975)ほか。2001年に逝去。享年78。
 
■展覧会情報
生誕100年 大辻清司 眼差しのその先 フォトアーカイブの新たな視座
会期:2023年9月4日(月)~10月1日(日)
時間:11:00〜19:00(土・日曜日、祝日は10:00 - 17:00)

休廊日:水曜日

会場:武蔵野美術大学 美術館・図書館

住所:〒187-8505 東京都小平市小川町1-736
 
【関連リンク】
https://mauml.musabi.ac.jp/museum/events/20681/

展覧会概要

出展者 大辻清司
会期 2023年9月4日(月)~10月1日(日)
会場名 武蔵野美術大学 美術館・図書館

※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。

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