top 本と展示写真集紹介『挑発関係=中平卓馬×森山大道』

『挑発関係=中平卓馬×森山大道』

2023/09/13
髙橋義隆

本書は2023年7月23日から9月24日まで開催されている同名展示の図録である。中平卓馬と森山大道については、本HPを見ている人であれば、いまさら説明不明かと思うが、念のため両者の関係について触れておく。
 
ともに1938年生まれで、森山大道は大阪で岩宮武二、東京で細江英公のアシスタントを経てカメラマンとして独立した。一方、中平卓馬は大学卒業後、新左翼系雑誌『現代の眼』の編集者として勤め、このとき寺山修司、東松照明の担当として付き合いが始まる。中平は編集者として寺山に小説「ああ、荒野」を書かせ、東松には映画評論を書かせようとしたが、結果写真を掲載するグラビアの連載となった。このとき、東松を介して森山と知り合う。のちに中平を介して森山は寺山と知り合い、単行本となった『ああ、荒野』のカバーで使用された写真を撮影し、『にっぽん劇場写真帖』では散文を提供してもらう関係になった。
 
中平は東松照明からカメラを渡され、編集者から転身して自ら「写真家」と名乗り、撮影と同時に批評も書くようになる。
 
ふたりがもっと密に係わったのが写真同人誌『プロヴォーク』に参加したときであろう。元々は中平が多木浩二とともに始め、森山は2号から参加する。結果的に3号で終刊となるが、この雑誌が果たした影響はいまも継続している。
 
1972年に刊行した森山大道の作品集『写真よ、さようなら』の巻末に対談「8月2日 山の上ホテル」が掲載されている。本書でも抜粋されているが、この対談は写真に限らず、類のない名対談といえる。できればこれは抜粋ではなく、全編を通じて読むべきだろう。もし写真とは何か? という漠然とした抽象的な問いに対してなにかしらの答えを求めるのであれば、その一端は掴めるかもしれないが、この対談は写真という狭い領域だけでなく、批評や表現に関心がある、携わっている人であれば必読であるといえる。
 
ちょっと話がずれてきたが、本書にはカメラ雑誌などで掲載されたページの複写がいくつか掲載されている。当時、森山と中平は主に雑誌媒体で作品を発表していた。カメラ雑誌だけでなく、グラフ誌や総合誌でも写真を提供しており、雑誌がメディアとしてある意味先鋭だった時代ともいえる。それでも中平は同人誌を作ったわけだから、熱量の高さが伺える。同時に、そのラディカルさが短命であったことは宿命であったのかもしれない。
 
最後、巻末に寄せられた森山大道のエッセイは、締めくくりにふさわしい余韻を残す名品である。

 

  • 『挑発関係=中平卓馬×森山大道』
  • 出版社:月曜社
    発売日:2023年8月9日(水)
  • デザイン:町口覚(マッチアンドカンパニー)
    販売価格:2,640円(税込)
  • http://www.moma.pref.kanagawa.jp/news/2023-07-14


【関連リンク】
http://www.moma.pref.kanagawa.jp/exhibition/2023-provocative-relationship

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