佐内正史の『静岡詩』は、2023年7月11日から8月27日まで静岡市美術館で開催されている同名展示にあわせて刊行された新作である。今回の展示にあわせて撮り下ろした新作と過去の写真で編集した内容となっている。個々の写真についてのデータはないので、どれが新作でどれが旧作か判断はつかないが、それは些細なことで、ページを捲れば一貫した佐内正史の視線が展開している。
1968年生まれの佐内は1997年に『生きている』でデビューした。『生きている』に写されている光景は、佐内が20代の頃、つまり90年代が写っている。フィルムを買う金がなく、レンズとボディだけの6×7カメラをもってスナップしていたと何かで読んだが、写真にならなかった風景があった。
『生きている』には写真になった風景が並んでいた。それは1990年代の日常だった。バブル経済が崩壊し、その残滓がありつつ、先の見えない不安が徐々に浸透し、物質的繁栄と刹那の享楽を楽しみつつも、不意に現れる虚無感に気持ちを支配される。『生きている』にはそんな90年代が記録されていた。
それから26年を経た『静岡詩』だが、佐内の立ち位置は変わることはない。時間は経過したが、ここにある写真には日常が写っている。故郷の静岡も90年代の東京も、佐内の写真にあるのは日常の断片だ。90年代との違いは何か、それはいずれこの日常が失われるかもしれないということだけだ。だからこそ『静岡詩』は佐内のとって必要な作品なのかもしれないと、推測する。
- 佐内正史『静岡詩』
- 発行:対照
- 発売日:2023年7月11日
- 価格:2,500円(税込)
仕様:四六判変形、208ページ- https://taisyo.thebase.in/items/76398232
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