東京銀座の巷房で白石ちえこ写真展『北北東』が開催される。
- 北 北 東
北へ、北へ、そして東へ。
凍結した汽水湖を渡る鹿の群れに誘われ、2015年から真冬の道東に通った。
北の大地には野生的な自然が溢れていて、その大きな力に魅せられるように、二年ぶりに根室を軸に道東を旅した。
四月。根室に着いた翌早朝に雪。
冬から春へ。季節は行ったり来たりしながらゆっくりと歩む。冬のあいだ、閉ざされたように白く静まり返っていた大地には音が戻ってきていた。川や湖の氷は溶けて、大きな水の流れが生まれていた。
大地から水がしみ出し、透明な空気の中で無数の小さな流れをつくり、土はうごめいていた。
森や草原で、草をかきわけ、微かに踏み固められてできたけものたちの小径を見つけた。
凍土がとけきらない頃には、森をくぐり、その足あとをたどって湿原を抜け、服に草のタネをたくさんくっつけながら水辺までたどりついた。
根室の語源はアイヌ語の「ニムオロ」。〝樹木の繁茂するところ〟という意味だという。
かつてこの地はシマフクロウが巣をつくれるほどの大きなうろを持つ樹々が生い茂る、深い森だったのだろうか。- 今、大きな樹は見当たらないし森も減ったが、昔から変わらず人を寄せつけない広大な湿原は残っている。歴史の中で大地の開拓や開発が進み、人の手が入り込んできてはいるものの、そこには力強い自然の風景があった。
大きな自然の中に人が入り、交わり暮らす。
この北の大地には、人間が自然環境と交差しだした、はじまりの風景のようなものを感じるのだった。
ここでは動物も人も同じように、自然の中にぽつりぽつりと姿を見せた。
一見何も無いような風景に見えるが、そこに惹かれてまた道東を訪ねてしまうのだった。
「こゝへ畑起してもいゝかあ。」
「いゝぞお。」森が一斉にこたへました。
みんなは又叫びました。
「こゝに家建てゝもいゝかあ。」
「ようし。」森は一ぺんにこたへました。
『 狼森と笊森、盗森 』 宮沢 賢治
土地にまだ名前のなかった頃。
道東を旅していると、どこからか風にのって、こんな声が聴こえてくるのだった。
白石 ちえこ
■展示情報
白石ちえこ写真展『北北東』
期間:2023年7月31日(月)〜8月12日(土)
時間:12:00〜19:00(最終日17:00まで)、入場無料
休館日:日曜休廊
会場:巷房3F、地下1階、階段下
住所:〒104-0061 東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル 3F+B1F
電話:03-3567-8727
企画:アトリエ シャテーニュ
【関連リンク】
http://atelier-chataigne.org/
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