top 本と展示写真集紹介佐藤圭司『黒砂』

佐藤圭司『黒砂』

2023/07/30
髙橋義隆

あとがきで作者はタイトルの由来について書いている。「黒砂」はこどもの頃に住んでいた家の最寄り駅の名称だったという。5回改名して、「黒砂」は4回目の駅名だそうだ。最初の駅名は「浜海岸」で、その名から察するように海岸から近い場所だったという。作者が幼少の頃に「黒砂」という駅名だったらしく、この名称が記憶と場所を結びつけているようだ。これを書くために調べたら、この駅は千葉県にあるらしい。
 
本書は海とその周辺で構成されている。海のある場所を訪れては撮影を繰り返していたのだろうが、その行動はこどもの頃に遊んだ海岸を追想するもののようだ。作者にとって撮影行為はこどもの頃に遊んだ頃の延長にあるのかもしれない。
 
千葉県の太平洋側に位置する地名に、和歌山県と同じ地名の場所がいくつかある。例えば勝浦は最たるものだ。一説によると和歌山で漁師をしていた者が、新しい漁場を求めて船を出して、流れ着いた場所が現在の九十九里浜とも言われている。実際、千葉県産の農産物には、関西由来の野菜もあったりする。あれだけ長い海岸であるのだから、様々な漂流があったであろう。源頼朝ですら平氏から逃れて安房のあたりに漂着している。柳田国男風にいえば「海上の道」でもって、海からやってきた人や物がそのまま居着き、新たな生活の場としたかもしれない。
 
そんなことを思いながら本書を見ていると、記憶とは個人の記憶だけでなく、歴史の記憶、場所の記憶と様々な記憶があることに気付かされる。『黒砂』は作者の個人的な記憶を追想することから始まり、普遍的な歴史の記憶へと導く艫綱が各々の写真に係留されているようだ。

 

【関連リンク】

https://photogallery.red/schedule/2023/20230703/exhibition.php

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