前川貴行は動物写真家の最前線にいるといっても過言ではないだろう。雑誌のグラビアや広告で掲載された自然や動物の写真を何気なく見ていると、撮影:前川貴行とキャプションがついている。おのずとその名前を覚え、いつのまにか写真を目にする機会の多い写真家であろう。
著作も毎年のように刊行しているが『動物写真家の記憶』(新日本出版社刊)は、2023年3月の刊行となる。フォトエッセイの体裁でタイトルにある通り、前川自身の来し方を振り返ったエッセイと写真で構成されている。
子供の頃から自然に魅せられて、都会で育ちながらも公園にある樹木や植物の匂いに惹かれていたという。まだ写真家として間もない頃の家族とのエピソードや、遭遇した動物たちのこと、普段思い考えていることなど、気取りのない文章で綴られ、著者の人柄が垣間見えてくる。
あわせて掲載された写真を見ると、世界の各地域を巡り、雪原の佇む鷲、存在感を放つ熊、荒野に放擲された白骨、水中のイルカと改めて様々な状況に応じて撮影を敢行している。
カメラの功績のひとつに、見ることのできない世界を見ることが可能になった、という事象が上げられる。当たり前のように写真を見ているが、カメラを手にしていない立場で考えれば、写真によって認識が拡張したともいえる。むろん、視覚情報だけの疑似体験に過ぎないが、視覚化されることで人間の意識は進化されているような気がする。
そこには現場に行き、実際に体感してシャッターを押す写真家がいる。その写真家の仕事が私のような凡人に刺激を与え、あらたな知識を与えてくれる。動物写真もまたしかりで、行ったことのない世界をかりそめながらも、教えてくれることに敬意に似た気持ちを抱かせてくれる。
ちなみに本書はいまはなきカメラ雑誌『日本カメラ』で2018年1月から約2年間連載していた「EARTH FINDER」を元に再構成されてまとめられた。
- 『動物写真家の記憶』
- 著者:前川貴行
- 発行:新日本出版社
- 発行日:2023年3月31日
- 定価:3,410円(税込)
- A5判・並製本・192ページ
https://www.shinnihon-net.co.jp/general/detail/name/動物写真家の記憶/code/978-4-406-06744-7/
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