top 本と展示写真集紹介『写真批評』復刊1号

『写真批評』復刊1号

2023/04/15
髙橋義隆

復刊1号とあるだけに『写真批評』(東京綜合写真専門学校出版局刊、以下綜合写専)は、かつて存在した雑誌である。1973年に同じ綜合写専から発行され、1974年に7号まで存続した。発行人は重森弘淹、編集人は桑原甲子雄であった。その『写真批評』が2023年に復刊するとは予想だにもしなかった。
 
編集長には批評家の調文明氏、編集委員にきりとりめでる氏、監修に深川雅文氏が参加している。巻頭と最後のエッセイは綜合写専の現校長である写真家の伊奈英次氏が執筆し、座談会、論考、書評と充実した誌面になっている。
 
2020年はコロナ禍とともに始まり、今に至るわけだが、メディアに与えた影響は甚大であった。写真に関して言えば主要な写真雑誌がなくなり、紙媒体によるジャーナリズムがほとんど壊滅状態となった。そうした中で2022年にふげん社より雑誌『写真』が刊行され、新たな写真雑誌が誕生し、話題を集めた。そして『写真批評』も復刊するなど、写真に関する批評、発言の場が紙媒体で新たに登場している事実は興味深い。
 
特集に「写真批評のトポロジー」とある。トポロジーとは日本語に訳すと位相であり、解析学や物理学の概念で用いられる。一方で地域や性別、階層などで書く・話すによって言葉の違いが起こる現象のことを指す。このトポロジーという主題を基底にしているのが、2つの座談会であろう。彫刻家、批評家である小田原のどか氏を迎えた座談では、彫刻と写真を合わせ鏡のような形で並列し、両者の位相を浮き上がらせ、その背景にあるイデオロギー性について考察している。
 
もうひとつの座談では写真の賞を軸にして、各賞の変遷と現在に至る状況を考察し、機材の変化と作品に及ぼした影響、2022年時点での社会問題を背景に言及している。他の論考も含め、写真についてこれだけ言葉を費やしての批評と検証、討論は久しくなかったような気がする。つまり写真に関する言説が、潜在的に渇望されていたことの証拠かもしれない。
 
個人的なことで恐縮だが、私は以前「写真の会」という有志の集まりに参加し、そこに調氏と深川氏も参加されていた。毎年1回その年に発表された作品の中から選考して賞を与えるイベントがあったのだが、そのときのお二人は論理的に独自の見解を流暢に述べて、頭脳レベルの高さに圧倒されていた。私のような半端者がなぜこの会にいるのか自分でもわからず、何の貢献もできない役立たずの会員だったため、「これは俺がいちゃダメだな」と思い、辞めました。本書に掲載された座談会を読み、そのときの経験が甦り、自分の頭の悪さを改めて痛感した次第です。やっぱり批評は頭が良くないとできないですね。
 

 

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