小澤太一『回』がulus publishingより刊行された。
ナウル共和国やレソト王国、サハラ砂漠など、簡単には訪れることのできない場所を旅し、出会った人々を撮影し続けてきた小澤太一。コロナ下、たどり着いた北海道・道東の森や海岸を彷徨うように歩きながら、たくさんの命が生まれ消えていく瞬間を目の当たりにしてきた。
ある日の森で、土の上に横たわる大きなエゾシカの頭骨に出会った小澤は、その頭骨の定点観測を始める。やがて自身の撮影動機と頭骨の存在が結びつき……。
太古の昔から大きな循環の中で生きてきた人や動物、自然の姿から、現代を生きる私たちは何を受け取り、どんな価値観をつないでいけるのか。問い続け、答えを求め続けながら撮影された作品集である。
■作家メッセージ
コロナ禍をきっかけに、これまで海外を撮り続けていたぼくは被写体を見失った。時間だけはあったので、すべての都道府県を旅した末にひとつの魅力的な場所を見つけた。それは北海道の最果ての地だった。荒々しく何もない……そんな無垢な場所で、太陽より早く起き、星の軌跡を追う日々。自然は二週間も空けると次の季節へと変化してしまう。すべてを見逃さないために、最果てに拠点を構え、ゆっくり自然と向き合う決意をした。海や森をあてもなく歩くと、たくさんの命が生まれ消えていく瞬間を何度も目の当たりにした。
二拠点生活をする中で、次第に最果ての文化や歴史にも視野が広がっていった。北海道は寒冷な気候だったため、稲作が始まる弥生時代が無い。その代わり縄文時代から一万年以上にわたって人々の食を支えていたのは、鮭をはじめとした自然からの恵みであり、それは今もしっかり継承されている。またアイヌの人々が自分たちのことを指して使っていた「加伊」という言葉があり、「この地に生まれた者」という意味がある。それはやがて「北海道」という名前の一部へと受け継がれていく。本州からの和人たちが最果ての地へと移り住み、幾重もの歴史を重ねてきた軌跡の先に、今の風景がある。ぼくはその裏に潜む無数の想いに思考を巡らせながら、シャッターを切る毎日……それは日本にも魅力的な被写体がまだ無数にあることを再発見する時間でもあった。(キヤノンギャラリーSでの展示より)
■プロフィール
小澤太一(こざわ・たいち)
1975年、名古屋生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、アシスタントを経て独立。人物撮影をメインに、写真雑誌での執筆や撮影会の講師・講演など、活動の範囲は多岐にわたる。ライフワークは「世界中の子どもたちの撮影」で写真展も多数開催。主な写真集に『ナウル日和』『SAHARA』『赤道白書』『HEROES』など。身長156cm 体重39kgの小さな写真家である。キヤノンEOS学園東京校講師。日本写真家協会会員。
- 小澤太一『回』
- 発売日:2025年10月17日
- 発行:ulus publishing
仕様:A4変型判(218×300mm)、上製本、144ページ、トリプルトーン
編集:高橋佐智子
アート・ディレクション:三村 漢(niwanoniwa)
プリンティング・ディレクション:鈴木利行
協力:鈴木貴也 西尾朋高
印刷:アルキャスト・製本:渋谷文泉閣
本体価格:6,000円+税
【関連リンク】
https://ulus-publishing.com/2025/10/02/写真集『回』(著%EF%BC%8F小澤太一)を刊行します/


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