第31回(2023)林忠彦賞に新田 樹の写真集・写真展「Sakhalin」が決定した。
ロシア・サハリン(樺太)、この島の北緯50度から南半分は、日露戦争後の1905年から1945年8月の第二次世界大戦終結までの40年間、日本の統治下にあった。1945年8月のソ連参戦時の緊急疎開と翌年に始まる引き揚げで、そこで暮らしていた日本人の多くはこの地を後にした。一方で多くの朝鮮半島出身者やその配偶者であった日本人らは、ソ連が支配したこの地を離れることはかなわなかった。
戦後50年を過ぎた1996年、写真家としての最初の地としてロシアを旅していた作者は、サハリンのユジノサハリンスク(豊原)で日本語を話す女性たちと出会い、サハリンとそこに生きる残留韓国・朝鮮人やその配偶者であった日本人がいることを知った。しかしその時はまだ、これらの人々と向き合う自信が持てなかった。
14年後の2010年、作者はこうした人々の現実を残したいと決意を固めた。最後の生き残りともいうべき人たちの家を何度も訪ね、丁寧に取材し、その生活や周りの様子をカメラにおさめていった。そしてその成果を、2015年の写真展「サハリン」で発表、その後も取材を続け、2022年の写真展「続サハリン」と写真集『Sakhalin』にまとめあげた。
遠い北方の地で今なお日本語を話す人々。凍てつく寒さの中でつつましく生きる彼女らの人生に寄り添いながら撮影した作品には静かな時間が流れている。歴史に翻弄されながらもたくましく生き抜いてきた一人一人の人生の重みが伝わってくる。
本作品は、戦争の歴史に翻弄された人々の姿が写真の行間から浮かび上がるドキュメンタリーの仕事として、高く評価された。
【選考委員】(敬称略・五十音順)
大石芳野 :選考委員長、写真家
笠原美智子:(公財)石橋財団 アーティゾン美術館副館長
河野和典 :編集者、(公社)日本写真協会出版広報委員
小林紀晴 :写真家
有田順一 :周南市美術博物館館長
■受賞記念展
・東京展
会期:2023年4月28日(金)~5月4日(木・祝)
会場: 富士フイルムフォトサロン
東京都港区赤坂9-7-3 東京ミッドタウン フジフイルム スクエア
☎︎03-6271-3351
・周南展 ―林忠彦の生誕地―
会期:2023年5月12日(金)~5月21日(日)
会場:周南市美術博物館
山口県周南市花畠町10-16
☎︎0834-22-8880
・東川展 ―写真の町―
会期:2024年1月14日(日)~1月29日(月)
会場:東川町文化ギャラリー
北海道上川郡東川町東町1-19-8
☎︎0166-82-4700
【受賞者プロフィール】
新田 樹(にった・たつる)
1967年福島県出身。東京工芸大学工学部卒業後、麻布スタジオ入社。1991年半沢事務所入社、半沢克夫氏に師事。1996年独立。
【関連リンク】
http://hayashi-award.com
出展者 | 新田 樹 |
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会期 | 2023年4月28日(金)~5月4日(木・祝) |
会場名 | フジフイルム スクエア |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。
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