『つげ義春流れ雲旅』(朝日新聞出版刊)は待望の1冊である。1969年から1971年まで雑誌『アサヒグラフ』で断続に連載され、写真に北井一夫、文章を当時『アサヒグラフ』編集者であった大崎紀夫が担当し、3人で旅をした記録をまとめた内容となっている。1971年に単行本となり、のちに文庫化されたが約50年の時を経て、新装版となって再び目に触れることになった。
いまはもうないグラフ誌だが、当時は主流メディアのひとつで大学紛争の記事やルポルタージュなど、ジャーナリストの舞台として存在していた。一方でエッセイのような読み物もあった。グラフ誌ということだけあってどのページにも写真は必要とされ、カメラマンにとっても活躍の媒体であった。
『流れ雲旅』はそんな時代を背景にして誕生した。旅の情景をつげはイラストで表現し、大崎は言葉に置き換え、北井はシャッターを切った。個性的な3人だが、3人とも控えめであり、その距離感が寄り集まったとき、心地良い化学反応が起きる。
つげの絵も、北井の写真も何度も見ているはずだが、なぜか見飽きない。失われた風景が展開されているが、古びていない。本文で使用されている紙の質感が、絵と写真ともに相性がよく、ついページを捲ってしまう。大崎の文章は淡々と記録を綴っているような体裁だが、その抑制された感覚がつげの絵、北井の写真と共鳴している。
本書で描写された時代はすでに歴史の領域に入りつつあるが、時代性を越えた魅力は失われることなく、現在でも充分伝わってくる。
- 『つげ義春流れ雲旅』
- 著者:つげ義春、大崎紀夫、北井一夫
- 発行:朝日新聞出版
- 定価:2860円(税込)
発売日:2023年1月20日
A5判並製・336ページ- https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=23983
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