管付雅信の『写真が終わる前に』(玄光社刊)は写真専門誌『コマーシャル・フォト』で連載された「流行写真通信」をまとめたもので、2016年から2022年の約6年分が収録されている。
本書は写真時評ともいえる内容で、まえがきに「ファッション、広告、ポートレイト、ランドスケープ、ドキュメンタリー、ヌードから映画、映像まで広義の「写真全般」を分け隔てなく、その現在性を重点に取り上げ、21世紀における「写真とは何か?」「写真はどこに向かうのか?」を探求するジャーナルでありたいと意図した」とあるように、そのとき写真を含めたメディアで何があったかに焦点を絞っている。
写真というジャンルは時代を対象とするメディアであり、表現領域である。映画時評や文学時評は以前からあり今もあるが、写真時評は少ないような気がする。近年、写真に関する雑誌がほとんど消滅し、写真ジャーナリズムの存在が危惧される中で刊行された本書は、ひとつの希望のようにも思える。
管付は現場に向かい、写真家から直接話しを聞くことに徹している。そのストイックな姿勢は全体を貫き、ある種の美意識すら覚える。
本書を読みながら柄谷行人唯一の文学時評である『反文学論』を想起した。柄谷は文庫版のあとがきで「この時評を書いた時期が「近代文学」の終焉がはっきりする転換期だったからである」と書いている。『反文学論』に収められた時評は1977年から79年にかけてである。たしかに文学史において変わり目の時期であったと今なら思える。
『写真が終わる前に』も数年後、あの時代が写真における変わり目だったと言われ、来たる未来に本書は時代の証言として読み返されるのではなかろうか。
- 『写真が終わる前に タイムマシーンとしての写真の現在と未来』
- 著者:菅付雅信
- 発売日:2023年1月25日
- 発行:玄光社
- 定価:本体2,000円(税別)
- 四六判・306ページ
- https://www.genkosha.co.jp/gmook/?p=30203
【主な取材者】(五十音順:敬称略)
上田義彦/奥山由之/落合陽一/片山真理/操上和美/佐内正史/更井真理/ジェイミー・ホークスワース/志賀理江子/篠山紀信/ジャック・デイヴィソン/ジョニー・デュフォー/杉本博司/鈴木親/高橋恭司/瀧本幹也/濱口竜介/ハンナ・ムーン/ファビアン・バロン/藤井保/細倉真弓/ホンマタカシ/松江泰治/森山大道/山谷佑介/横田大輔/レスリー・キー
【著者プロフィール】
菅付雅信(すがつけ・まさのぶ)
編集者/株式会社グーテンベルクオーケストラ代表取締役。1964年宮崎県生まれ。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務め、現在は編集・執筆から企画、コンサルティングを手がける。
著書に『はじめての編集』『物欲なき世界』『動物と機械から離れて』等。写真集では篠山紀信、森山大道、上田義彦、マーク・ボスウィック、ジェフ・バートン、エレナ・ヤムチュック等を編集。
またアートブック出版社ユナイテッドヴァガボンズの代表も務め、編集・出版した片山真理写真集『GIFT』は木村伊兵衛写真賞を受賞。下北沢B&Bで「編集スパルタ塾」、渋谷パルコで「東京芸術中学」を主宰。東北芸術工科大学教授。NYADC賞銀賞、D&AD賞受賞。
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