『写真集の作り方』(守谷商店刊)は、熊谷聖司にとって初めてのテキスト本となる。本書のタイトルを見ると、これまで多くの写真集を制作してきた実績を踏まえた指南書かと思いきや、詩とも散文ともいえない独特な文体でもって綴られている。
構成など気にせず、思い着くままに書かれているようで、まるで言葉のスナップショットのようだ。熊谷の写真にある軽快さは言葉にも反映され、ここに作家として姿勢が示されている。同時に、写真における言葉とは何か、写真を撮る姿勢などが感覚に彩られた言葉の中でさりげなく語られている。
写真家がエッセイを書くことは珍しくない。かつ優れた文章を書く人も少なくない。森山大道の『犬の記憶』は私小説として読めるほど完成度が高く、森山の盟友・中平卓馬は独自の理論でもって写真を論じていた。また内藤正敏のように写真と切り離した観点から民俗学を敷衍して論文を書く奇才もいる。
対して熊谷の場合は、より写真行為に即したところから言葉を発しているように感じられる。プリント技術もある彼はワークショップも行う。つまり根底に技術があり、それが基礎となっている。ただ感覚だけでなく、支える技術があってはじめて写真は実現する。彼の言葉もまた同様で、感性だけに頼った語りではなく、削ぎ落とされて残った言葉が抽出されているように思える。
すぐに読めてしまえる本書だが、そんなに簡単なものではない。彼の写真の魅力が余白にあるように、本書もまた余白を読むことに醍醐味がある。熊谷のしたたかさが感じられる1冊だ。
- 熊谷聖司『写真集の作り方』
- 出版社:守屋商店
- 刊行年:2022年
- 105×148mm・86ページ
- 装丁:坂田佐武郎(Neki inc.)
- 価格:1,650円(税込)
- https://fanniemarie.stores.jp/items/6343fc44f3de5c49abbae4fa
【出版社より】
「写真集みたいな言葉の本をつくりたい」 そんな一言から生まれた写真家・熊谷聖司の「言葉の本」です。 これまで自身の写真集や作品展示のために書いたテキストや、 手帳や紙切れに記した手書きの「言葉」を集め、 写真をならべるように組み合わせてゆくと、 詩集でもエッセイでもない小さな本が出来上がりました。 熊谷さんが焼いたテストプリントのピースを一枚ずつ同封します。 こちらは栞としてもお使いいただいても。
【著者プロフィール】
熊谷聖司(くまがい・せいじ)
写真作品を制作する人。写真作品、写真集制作を中心に活動中。2020年スタジオ開設・カラー暗室 / 8X10カメラ講座などを行う。1966年、北海道函館市生まれ。 1987年、日本工学院専門学校卒業。東京都在住。個展に「もりとでじゃねいろ」「あかるいほうへ」「spring,2011」「EACH LITTLE THING」 「RE FORM」「眼の歓びの為に 指の悦びの為に この大いなる歓喜の為に わたしは尽くす」「心」。写真集多数。レーベル「マルクマ本店」運営。
Instagram:https://www.instagram.com/kumaurisumaki/?hl=ja
Twitter:https://twitter.com/kumagaii_seiji
マルクマ本店:http://kumagaiseiji.base.ec/
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