写真について書くことの難しさのひとつに、そのイメージに内包された強度に言葉が追いつけないことにある。言語化できないから写真という形で現している、という理由もあるだろうが、イメージでもって雄弁に語りかける写真を目の辺りにしたとき、従来の言葉は深く沈静するしかない。
中島里菜『海と玉ねぎ』(GRAF Publishers)のページを捲りながら、久々に言葉の無力さを覚えた。被写体の多くは日常の中で通過した、ささやかな断片が集まっているが、共通してここに光がある、という実感が満ちている。自然のあかり、ストロボによる発光、木漏れ日、フラットな光度など、光がそこかしこに散りばめられている。
写真は光学技術によって開発され、発展し、いまに至っているわけだが、カメラという機械装置が誕生したことによって、私たちは光の存在を再認識したと言っても過言ではないだろう。光の現象を再現することによって、それを表現へと昇華させることが可能になったのも、写真装置の大きな功績である。
言語を越えた先にある光が表現された本作は、言葉を凌駕したイメージの沃野に満ち、写真を見ることの歓びを実感させてくれる。
本作は中島の初作品集だという。プロフィールに2001年生まれとある。すでに独自の視線を持った写真家の登場に期待したい。
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