スマートフォンが普及し、内蔵されたカメラで撮ることが身近になり、Instagramに代表されるSNSで写真をシェアすることがあたり前になった現在。そうした状況において菊地一郎『違和の視線』(蒼穹舎刊)は、写真表現におけるひとつの姿勢を提示している。
日本各地で撮影され、風景となってまとめられた写真群は、丁寧に画角に収められ、ある種の品を感じる。それでいて堅苦しさはなく、置き忘れられたかのような場所に作者の視線が素直に感応しているのが伝わってくる。
徹底して人の姿はなく、風景だけが佇んでいる。本書を刊行した蒼穹舎はこうした傾向の作品集を得意とするが、編集と造本にも気品さが漂い、時代の流れとは関係なく、普遍的な強度をもって静かに鎮座しているようだ。
ネット環境の普及により、過剰な情報が跋扈する現在において、『違和の視線』は確固たる意志をもってファインダーをのぞく写真家の視線がある。俗にまみれた世間とは一線を画し、高尚さすら感じる。敷居の高さを感じる作品集だが、写真を見る歓びを知る人には、深く染みいる作品集となっている。
- 菊地一郎『違和の視線』
- 300部・A4変型・上製本・カラー78ページ・作品71点
編集:大田通貴
装幀:加藤勝也- 価格:3,800円(税別)
- 発売日:2022年6月17日
PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。