佐内正史の最新写真集『写真の体毛』は、体毛のように写真が溢れてくるような量で構成されている。
全編裁ち落としで、横位置の写真が見開きで展開。縦位置の写真もいくつかあるが、圧倒的に横位置が多い。ページをめくるうちに横位置で見ることに佐内正史の生理感覚があるように思えてくる。
写っているものも実に雑多だ。食べもの、移動中の風景、人、通りすがりの光景、自販機……。場所は様々であり、時間もバラバラであろう。そして、この本を見ていくうちに本書の隠れたテーマとして〈時間〉が潜んでいるように感じられた。
ロックバンド、サニー・デイ・サービスのメンバーを撮影した写真がある。見た目は若く、多分90年代から2000年代初頭にかけてであろうと察する。3人のうち1人はすでに他界している。あきらかな過去がここにあると理解するが、過去の時間が今の体験として現前していることも事実である。
サニー・デイ・サービスが過ぎた時間の象徴として現れる。写真となったとき、過去も現在も等しく存在させ、なおかつ時間を超越する。『写真の体毛』は、時間も場所もすべてを均一にすることで、写真があることを提示してくる。
佐内正史の最初の写真集のタイトルは『生きている』だった。『写真の体毛』もまた生きている証となって束ねられているようだ。
- 写真って暖かいなと思った、でも、
人の暖かさじゃなくて、猫の毛の暖かさ
動物の暖かさなんだなと思った、
言葉が無い、ご飯あげるだけでいいっていうか、
ご飯の暖かさ、ページをめくると、
写真の動きがでてきた、ロマンがある写真集ができた。
写真を撮って、忘れる事ができる、
撮って、プリントして、構成して、印刷して、
忘れていく、穏やかさがある、穏やかな本になる、
穏やかな本をめくっている、
電線に鳥が2羽とまってるのか、
3羽とまっているのか、
写真は、私の代わりに、曖昧を定着させていく。
― 佐内正史
佐内正史『写真の体毛』
259×163mm・512ページ・ソフトカバー
価格:4,500円(税込)
発行年:2022年
【関連リンク】
https://www.sanaimasafumi.jp
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