top 本と展示写真集紹介富澤大輔写真集『字』

富澤大輔写真集『字』

2022/08/06
髙橋義隆

著者である富澤大輔は、本書の版元である南方書局の代表も兼ねている。本作『字』は富澤にとって4作目の写真集となる。
 
新書サイズの判型で、ハードカバー・箱入り。モノクロですべてタテ位置。300を超えるページには作者が出向いた先で見つめた風景や光景、人やモノが淡々と並べられている。本文で使用されている黄色味を帯びた紙質が、変哲もない風景を表現するにあたり、効果を上げている。
 
書道に通じた著者がタイトルに「字」という文字を選んでいる。あとがきで著者は書道を絵画を比較して、絵画は模写か実物を見て描くが、書道の場合「表現するイメージは文字そのものである」ため、「現実世界で「字」と完璧に対応したものは見つからないのである。よっていわゆる書道の「学習」とは「先達の書跡を模倣することにある」と書く。
 
これを踏まえて考えたとき、絵画と書道の間に写真があるように思える。現実ではないが、もっとも近い姿を再現する写真は、事物や風景を倣うことで写真として成立する。
 
そう思いながら本書を改めて見ると、シャッターという一筆書きで表現された写真から、見ることとは積極的な姿勢であることに気付く。衒いがないイメージは、見る者の想像力を求めてくる。
 
造本も魅力的だ。書籍設計を担当した浅田農は、マッチ・アンド・カンパニーに在籍していたデザイナーである。浅田の仕事も注目に値する1冊だ。

 

  • 感動しない風景に感動することに、感動する。
  • GALAPA Programの第四作目、富澤大輔写真集『字』。
  • 一年前、富澤大輔のもとに、実家の母親から一枚の写真が、送られてきました。それは富澤が小学生の頃、学校の授業で書いたであろう「字」という一文字が書かれた色紙でした。富澤はこのえも言われぬ「字」という字の良さに素朴な感動を覚えます。
  • これはそんなえも言われぬ感動をキーワードにしてつくられた写真集。一年にわたって撮影された九千枚以上の写真から選ばれた、三百六枚の写真で構成されますが、その感動の種類が一体なんなのか説明のできないままに選ばれたこれらの写真たちは、こうして束になってもいまだ言葉を与えられることができないままでいます。この量で組むことでしか、つくることのできなかった感動を是非、体験してみてください。
  • 巻末には、植民地美術史研究者・柯輝煌(かきこう)による論考文も掲載されています。文字の発生から「絵画と書道」の差異、「模倣と創造」を【前近代/近代】という概念を通してめぐることで、今日「表現」とよばれているものの根源へと接近していく文章となっています。
  • ― 出版社説明文より

 

富澤大輔『字』

169×112mm・336ページ・掲載作品306点・ハードカバー、ケース入り

発行年:2022年

価格:4,950円(税込)

 

【関連リンク】

http://nanfangshuchu.com/shoseki/shoseki.html

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