top 本と展示写真集紹介太田昭生『豊島30年「産廃からアートへ」』

太田昭生『豊島30年「産廃からアートへ」』

2022/07/03
髙橋義隆

豊島と書いて「てしま」と読む。瀬戸内海に浮かぶ香川県下のこの島は、面積14平方キロで小豆島の西に位置する。1960年代から産廃物が不法投棄され、1990年に業者が警察に摘発されたことで住民たちが立ち上がり、県に責任問題を追及した。2000年に公害調停で知事が謝罪、現状回復の合意が成立した。廃棄物の撤廃はかなり済ませたものの、水質の回復にはまだ時間を要するという。その後、瀬戸内国際芸術祭の会場のひとつとして、アートの島へ変化していったが、島民は減り、過疎化が進んでいるという現実もある。

 

『豊島30年「産廃からアートへ」』(私家版)の作者である太田昭生は小豆島の出身。問題を抱えた島で、定点観測の方法を用いて記録した。30年という時間を経て変化した場所もあれば、そうでもない場所もある。カメラは記録装置として優れた機能を果たすが、虚飾のないイメージは見る者に事実の重みを提示する。


時間が流れていく様を見ると、無常という言葉が想起される。無常は仏教の主題のひとつであり、文学でもこの言葉と概念は用いられてきた。「諸行無常の響きあり」は、『平家物語』の冒頭で綴られている有名な語句だ。豊島の光景を見つめた太田の視線の先にも、無常の響きが鳴っていたのだろうか。(髙橋義隆)

 

書名:『豊島30年「産廃からアートへ」』

著者:太田昭生

定価:3,000円(税込)
発行年:2022年5月20日
部数:200部
サイズ・仕様:A4変型、上製本、カラー
ページ数:72
作品点数:140点
編集:大田通貴
装幀:加藤勝也
発行:私家版

 

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http://www.sokyusha.com

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