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東京東尾久のギャラリーOGU MAGで、落合由利子「絹ばあちゃんと90年の旅―幻の旧満州に生きて」が開催

2025/10/12

落合由利子「絹ばあちゃんと90年の旅―幻の旧満州に生きて」©Yuriko Ochiai

 

東京東尾久のギャラリーOGU MAGで落合由利子「絹ばあちゃんと90年の旅―幻の旧満州に生きて」が開催される。
 
写真家・落合由利子は、これまでさまざまな人々の暮らしを写真に収めてきた。ベルリンの壁崩壊直後の東欧を巡り、ルーマニアでは村に滞在しながら、人々の自給自足の暮らしを撮影。日本で自身も子どもを育てながら「働くこと」と「子育て」を題材に複数の家族を記録し、戦後生まれの「戦争体験」をテーマに40人へのインタビューとポートレートで構成された本をまとめるなど、精力的に活動してきた。
 
今回の写真展は、2015年に101年の生涯を終えた後藤絹さんという、落合がかつて一冊の本としてまとめた、一人の女性の日々の暮らしに流れる時間を写し撮った写真で構成される。
 
1913年に生まれ、開拓団として満州へ渡った絹さんは、ソ連の侵攻によって三人の子どもを亡くし、日本の敗戦後も中国の内戦で看護婦として従軍し、8年後にようやく帰国した。落合は、絹さんの話を聞くうちに、まるで絹さんの人生を一緒に旅しているかのように感じ、その人生は決して「過去の出来事」ではなくなっていったと言う。

 

■ステートメント
「今が一番幸せだよ」
そう言いながら伊豆半島の中央に位置する天城の山奥で一人、畑を耕しながら暮らす後藤絹さんに初めて会った日、その過酷な人生のあらすじをかいつまんで聞いた。
 
1913年静岡県藤枝に生まれた絹さんは、看護婦をしていた1939年26歳のとき、家の事情で、当時国策だった開拓団として満州(現中国東北部)に渡る。
開拓団の青年と結婚し三人の子どもを授かるが、夫は召集され、1945年8月9日ソ連軍の侵攻、大混乱の中を転々とする避難生活の中で、三人の子どもを次々と亡くし、難民生活者となる。
そして日本敗戦後、内戦状態となった中国で看護婦免許が絹さんを帰国から遠ざけた。中国共産党八路軍従軍看護婦として「留用」され、後方衛生部隊として3年間従軍する。1949年中華人民共和国成立後は、ハルピン医大で看護婦養成のために働くことになる。
日本敗戦から8年が過ぎた1953年39歳でやっと念願の帰国。シベリア抑留を経て天城山麓に開拓に入っていた夫と再会し再び生活を始める。二人の子どもに恵まれ、その子たちも成人し、それぞれの家族を築いた。夫は他界し、絹さんは一人で畑を耕し日々を暮らしていた。
 
出会った日から6年間、ときどきふらっとやってくる私を絹さんは暖かく迎えてくれた。「こんな話を聞いて、おもしろいのかい?」なんて言いながらお茶を入れてくれるのだった。
彼女と日常を共有し、その記憶を旅するうちに、今まで実感として感じなかったことを感じるようになった。
例えばこんなことだ。
ひとたび国家の戦争が起これば、星の数ほどの「個人の戦争」が始まる。「戦争」は終戦で終わるものではない。
「亡くなった子どものことは忘れないよ、これは一生ついてまわるの、死ぬまでね」
絹さんの言葉だ。
喜怒哀楽の感情は生きてきた時代が違ってもそんなに違うものではないと思う。絹さんの顔はやはり深い感情が刻まれた顔だった。
 
絹さんは2015年101歳でこの世を去った。
「生きてきたこと嘘じゃないんだから、話して何が悪いと思うのよ」
絹さんの生きた歴史の断片を未来に向けて伝えたいと思う。
 
※当時の表現のまま「看護婦」を使用しています。

 

本展では絹さんの写真に加え、インタビュー時にカセットテープに録音された声、そして絹さんの人生と戦争体験をまとめた小冊子を通じて、その波乱に満ちた人生を我々も一緒にたどるものになる。ある一人の個人史を通して歴史に触れ、戦争と平和について改めて考えるきっかけとなることを願っている。
 
写真展の開催に合わせて、特別冊子を発売する。

 

  • ■展覧会情報
    落合由利子「絹ばあちゃんと90年の旅―幻の旧満州に生きて」
    会期:2025年10月23日(木)~11月9日(日)
    時間:13:00~19:00
    休廊日:月曜日、火曜日、水曜日
    会場:ギャラリーOGU MAG
    住所:東京都荒川区東尾久4-24-7

 
■関連イベント
・アーティストトーク:絹さんを語る
日時:10月26日(日)17:00〜(要予約)

定員:20名
参加費:無料
 
・写真家 藤岡亜弥さんとのトークイベント
日時:10月31日(金)18:30〜(要予約)
定員:20名

参加費:1,000円

 

予約は OGU MAG店頭またはinfo@ogumag.com にて受付
※予約開始日:10/11(土)~ ※定員になり次第、予約受付を終了

 

■プロフィール
落合由利子(おちあい・ゆりこ)
1963年埼玉県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒。人物ドキュメントを中心に仕事を展開する。写真集に『東欧 1989 EASTERN EUR0PE』(自主出版 2025年)、『話したい-戦争は知らないけれど』(私家版、2021年)、『WINDOW'S WHISPER』(私家版、日本大学芸術学部長賞受賞、1984年)。主な個展に「東欧 1989 EASTERN EUROPE」(IG Photo Gallery、2025年)、「CORNEREVA-ROMANIA1991」(ギャラリー冬青、2025年)、「働くこと育てること」(全国巡回、2000-2017年)。美術家スクリプカリウ落合安奈とのコラボレーション展示「私の旅のはじまりは、あなたの旅のはじまり」(横浜市民ギャラリー、2024年/MYAF、2023年/ANB Tokyo、2021年)。著書に『絹ばあちゃんと90年の旅-幻の旧満州に生きて』(講談社、2005年)、『働くこと育てること』(草土文化、2001年)。共著に『ときをためる暮らし』(文藝春秋/自然食通信社、2012年)、『若者から若者への手紙1945←2015』(ころから、2015年)他。


【関連リンク】
https://ogumag.wixsite.com/schedule/single-post/yuriko_ochiai

展覧会概要

出展者 落合由利子
会期 2025年10月23日(木)~11月9日(日)
会場名 OGU MAG+

※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。

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