東京丸の内のBUGで「第3回BUG Art Award ファイナリスト展」が開催される。
BUG Art Awardは、制作活動年数が10年以下のアーティストを対象にしたアワード。審査員からのフィードバックの提供や、展示・設営に関する相談会の開催などのサポートを行い、審査にまつわる過程でアーティストの成長を支援する。新しい表現に挑戦したい、アーティストとしてキャリアを築きたいという想いを応援する。
BUGの前進であるガーディアン・ガーデンが31年間実施してきた『ひとつぼ展』(1992-2008)、「1_WALL」(2009-2023)を引き継ぎ、新しい表現への挑戦やアーティストのキャリア形成をバックアップする。
・応募総数418件から選出された6名のファイナリストによる展覧会
今回選出された6名のファイナリストの表現は、絵画、工芸、インスタレーション、映像、メディアアート、ランドアートなど多岐にわたる。本展はファイナリスト6名の話し合いにより展示位置を決め、BUGの空間を使って展示・設営のシミュレーションなどを行いながら、最終の展示プランを決定していく。
・新たな2名の審査員を迎えての新体制によるアワードのファイナリスト展
本アワードでは審査員の任期を最大3年としている。アート業界の変化に対応し、アワードも変化し続ける必要があると考えているためだ。そして今回から、美術家の百瀬文とやんツーを新たに審査員として迎えた。百瀬文は映像によって映像の構造を再考させる自己言及的な方法論を用いながら、他者とのコミュニケーションの複層性を扱い、やんツーはテクノロジーによって無意識化/隠蔽される政治性や特権性を考察し、明らかにしていくことを試みている。2名の審査員を迎えたことでアワードの応募者層やファイナリストにも変化が生まれた。
これまでのファイナリスト展とはまた違う新たな表現、変化を感じるはずだ。BUG Art Awardの新しい展開にぜひご注目したい。
また会期中の2025年9月30日(火)には、グランプリ1名を選出するための公開最終審査を行う。グランプリ受賞者は、約1年後にBUGにて個展を開催し、設営撤去をあわせた作品制作費上限300万円と別途アーティストフィーが支給される。
■ファイナリスト(6名)と作品タイトル
・沖田愛有美「実りについて」
・徐秋成「さざ波:200年後の大地震」
・善養寺歩由「Generated Pimples」
・髙橋瑞樹「壊れた時計の針を見つめる」
・吉原遼平 「五大湖 The Great Lakes」
・里央「Purple Back」
- ■展覧会情報
「第3回BUG Art Award ファイナリスト展」
会期:2025年9月23日(火・祝)~10月19日(日)
時間:11:00〜19:00
休廊日:火曜日
会場:BUG
住所:東京都千代田区丸の内1-9-2 グラントウキョウサウスタワー1F
■関連イベント- ・ファイナリスト6名による展示ツアー+ミニトーク
- 当日はファイナリストによる作品説明のほか、BUG Art Awardへの応募きっかけや、普段の制作活動についてなど、さまざまなテーマから6名を知っていただき楽しめる企画となっている。
出演:沖田愛有美、徐秋成、善養寺歩由、髙橋瑞樹、吉原遼平、里央(敬称略)
日時:①9月24日(水)②10月18日(土)各19:00〜20:30- 参加方法:会場参加のみ
申込み: Peatixより要事前申込、参加無料(詳細はBUGのウェブサイトやSNSを確認)
・公開最終審査
6名のファイナリストが、バグ展の展示内容とグランプリを受賞した際の個展プランについてプレゼンテーションを行う。その内容をもとに審査員の議論を経てグランプリが決定する。最終審査は予約者を対象に、全て公開(オンライン配信)で行う。
日時:2025年9月30日(火)15:00〜19:30
審査員:菊地敦己(アートディレクター/グラフィックデザイナー)、中川千恵子(トーキョーアーツアンドスペース 学芸員)、百瀬文(美術家)、やんツー(美術家)、横山由季子(東京国立近代美術館研究員)- 参加方法:オンライン配信のみ
申込み:Peatixより要事前申込、参加無料
https://final-0930.peatix.com/view
※最終審査の当日、BUGは休館となる。会場に来ても、展示や審査は見られない。
■ファイナリストプロフィールと作品紹介
▼沖田愛有美/Ayumi OKITA
1994年岡山県生まれ。2024年、金沢美術工芸大学博士後期課程修了。石川県金沢市を拠点に、漆をメディウムとした絵画制作を行う。植物の樹液であり、制作者の予想を超えた変化をする漆を、人と自然をつなぐ媒介者であると捉え、人間と非人間的な存在との関わりを見つめる。近年では、自然環境と人の営みの相互作用、さらにそれらの関わりの中で紡がれてきた民俗や神話にも関心を広げている。
主な活動歴:
2024年 「暦を運び、種を食(す)く」白鷺美術、石川
2024年 「具象⇔抽象 —絵画において具象的なものが抽象的なものに変わる瞬間や契機、あるいはその反対の現象」 キュレーター 山本浩貴、ASTER Curator Museum、石川
2024年 「祝福は傷口を伝っていく」 クマ財団ギャラリー、東京
主な受賞歴:
2020年 佐藤国際文化育英財団 30期奨学生採択
2018年 クマ財団第2期生採択
2017年 第38回瀧富士国際美術賞 優秀賞
INSTAGRAM
https://www.instagram.com/ayumi.okita/
WEBSITE
https://www.ayumiokita.com
タイトル「実りについて」
絵画/インスタレーション
森は本当に豊かになっているのでしょうか。温暖化や森林減少が語られる一方で、手入れを失った里山の荒廃も各地で問題となっています。かつて人は神を介して自然と関わり、実りを祝う農耕儀礼を営み、山には女神の存在も想像されてきましたが、いまや森との関係は希薄になりつつあります。本作では、人の思い通りにならない漆との応答のなかで絵を描き進めるという行為を通して、現代における自然との新たなつながりを模索します。
▼徐秋成/Xu Qiu Cheng
1993年中国河南省生まれ。東京を拠点として活動している。多摩美術大学メディア芸術コースを卒業、東京藝術大学大学院先端芸術表現科を修了。主にゲームエンジンを使って映像やゲームを制作。死後の世界や夢、記憶、ポストメモリーをゲームと演劇の手法で表現する。
主な活動歴:
2023年「夢の火山」脱衣所、東京
2023年「The Colossus on AIR」 Parco GalleryX、東京
2023年「宇宙船イン・ビトゥイーン号の窓」(チェルフィッチュ)東京、京都、中国烏鎮、ベルギーブリュッセル、韓国ソウル、フランスパリなど
主な受賞歴:
2023年 東京藝大アートフェス佳作WEBSITE
2023年 アジアデジタルアート大賞FUKUOKA動画部門大賞 文部科学大臣賞
2021年 多摩美術大学校友会奨学金
INSTAGRAM
https://www.instagram.com/bzufr/
タイトル「さざ波:200年後の大地震」
メディアアート/映像/パフォーマンス等の身体表現
この作品は「ポストメモリー」をテーマに、ゲームエンジンを用いて制作された。日本の「国生み」神話から始まり、人類の宇宙移住、地球外生命体への進化へと至る。そして物語は終盤から遡るように、地球外生命体となった人類の末裔たちが、初めてこの星に降り立った祖先の神話を手がかりに、かつての地球を想像し、高度なテクノロジーによってその世界をシミュレートしようとする。その二つの時間軸の交差点に、「私」が存在している。
▼善養寺歩由/Ayu ZENYOJI
1999年生まれ、東京都出身、東京都在住。2023年10月-2024年3月ドイツ ハレ・ギービッヒェンシュタイン城・芸術・デザイン大学 ガラス・ペインティング学科留学、2025年3月東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。AI、メディア、広告などの視覚文化を通じて無意識に再生産されるジェンダー規範や生産消費社会と美の関係性に批評的な視線を向け、ステッカーやマシン、映像、ステンドグラスなど、多様な技法とユーモアを交えたアプローチでそれらの構造を可視化する。排除された身体性や、匿名化された顔の記号性に着目した作品を制作している。
主な活動歴:
2025年 「Mikke Studio with OTOMODACHI」 Mikke Gallery、東京
2021年 「〇〇〇〇ッ〇」 上野センタービル、東京
2021年 「Consuming Commodity」 銀座中央ギャラリー、東京
主な受賞歴:
2025年 東京藝術大学卒業制作展 平成藝術賞
2023年 Geidai Art Fes 2023 優秀賞
INSTAGRAM
https://www.instagram.com/zenyojiayu/
X
https://x.com/zenyojiayu
タイトル「Generated Pimples」
メディアアート/インスタレーション
本作では、AIで生成された三体の女性像と、機械仕掛けのニキビを対比させています。広告やSNSに流通する女性像は、消費を駆動させる「理想の顔」として再生産され続けます。そうした中、ニキビのような不完全性は不可視化され、身体のリアルは排除されていきます。美術史から広告に至る女性表象と、AI生成がもたらす均質化の問題を重ね合わせ、視覚文化と消費の結託によって形成される「魅力」の構造に異議を唱えます。
▼髙橋瑞樹/Mizuki TAKAHASHI
1999年生まれ。誰も見たことないものを見てみたいという漠然とした思いからドローイングマシンを制作している。制御可能な自分以外の他者を介することで、自分自身の想像を超える何かが生み出される瞬間を誘発できると信じており、ドローイングマシンに作用する作者の創造的介入を限りなく薄めたその最果てに、誰も見たことがないものが生み出される瞬間が訪れると考える。
主な活動歴:
2023年「令和4年度東京藝術大学 卒業・修了作品展」東京藝術大学、東京
主な受賞歴:
2022年 WATOWA ART AWARD 2022 大庭大介賞
INSTAGRAM
https://www.instagram.com/tkhsmz/
X
https://x.com/tkhsmz
WEBSITE
https://takahashimizuki.com/
タイトル「壊れた時計の針を見つめる」
メディアアート
20年以上も前に製造され、デッドストック品として安価で売り払われたキャビネットが仕舞い込みたかったものは何か。まだ使用できるにもかかわらず、不用品として捨てられていた照明が照らしていたかったものは何か。そうした存在が持っている歴史性に着目することで、新しい何かが生み出される瞬間に立ち会いたい。本作は目に見えない力を誘発する装置として、ドローイングマシンを儀式的に用いる試みである。
▼吉原遼平/Ryohei YOSHIHARA
広島県出身。シラパコーン大学交換留学。多摩美術大学美術学部絵画学科卒業。ダブルスクールで美学校「現代アートの勝手口」修了。アートサロンえん川設立。東京藝術大学美術研究科絵画専攻壁画研究領域修了。最近は富士塚について調べたりしています。
主な活動歴:
2025年「ジュリアンの不在」Up&Coming、東京
2022年「地続きのものたち」アートサロンえん川、東京
2018年「アタミアートウィーク」熱海市街、静岡
主な受賞歴:
2021年 アーツカウンシル東京 第3回スタートアップ助成
INSTAGRAM
https://www.instagram.com/yoshihara_ryohei/
WEBSITE
https://www.ryohei-yoshihara.com
タイトル 「五大湖 The Great Lakes」
メディアアート/イラストレーション/ランドアート
カナダとアメリカの国境にある五大湖のそれぞれの湖と似た形をもつ湖をGoogleMapsで探しました。その名も知れぬ5つの湖にGPSを埋め込んだ丸太を1つずつ放ちます。会場にはそれぞれの湖に対応する5つの生け簀が並べられます。そして、水に浮かんだQRコードをスマホで読み取ることにより、湖を漂う丸太の現在地を確認することができます。
▼里央/LIO
1996年長野生まれ、東京育ち。ギリシャ・アテネでの留学を経て、2023年に東京藝術大学美術学部先端芸術科を卒業。クイアとして、人種・ジェンダー等の人間の属性をめぐる世の中に対する問題意識をテーマに、フィクションとノンフィクションを往来するマルチメディア作品を制作している。現在は植民地主義をめぐる問題を考えるために、沖縄に住んでいる。
主な活動歴:
2024年「饗宴/SYMPOSION」世田谷パブリックシアター、東京
2024年「敷居を踏む」東京藝術大学陳列館、東京
2023年「Touch My Mumblings, Hug My Words, Kiss My Singing」旧平櫛田中邸、東京
INSTAGRAM
https://www.instagram.com/em__1_l_1__o/
WEBSITE
https://www.emilykgportfolio.com
タイトル「Purple Back」
メディアアート/映像/パフォーマンス等の身体表現
パレスチナでの虐殺を止めるために呼びかけられるBDS運動や、警察によるレイシャルプロファイリングの経験、ミスジェンダリングをめぐる問題について、複合的に示唆されながら進んでいくダイアログに、作家自身がリップシンクする映像を、ハンモックに座って視聴する。ドラアグは、男女二元論への抵抗として。ハンモックは、日本社会においてスティグマ化される人種やジェンダーをめぐるトピックを、宙ぶらりんな状態で聴かせるための設定として用意されている。
【関連リンク】
https://bug.art/exhibition/bug-art-award-3/
出展者 | 沖田愛有美・徐秋成・善養寺歩由・髙橋瑞樹 ・吉原遼平 ・里央 |
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会期 | 2025年9月23日(火・祝)~10月19日(日) |
会場名 | BUG |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。
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