寺田健人「聞こえないように、見えないように」©kento Terada
Yumiko Chiba Associatesで寺田健人「聞こえないように、見えないように」が開催される。
寺田は、1991年に沖縄に生まれ、2019年に東京藝術大学大学院 美術研究科 先端芸術表現専攻を修了した気鋭の作家だ。近年は、写真を中心に、多様な手法を取り入れたインスタレーションなどを制作し注目を集めている。
寺田が制作する写真は、ストレートフォトから演出を加えたものまで多岐にわたる。たとえば、寺田が想像上の父親となって不在の家族との団欒などを演じる《想像上の妻と娘にケーキを買って帰る》では、生まれ持った性によって決定され内面化される性的規範や社会規範、セクシュアリティ、男性性、そこから排除されるクィア的な性/生のありようなどが多重化された批評的な作品である。寺田は、写真というメディアを通して、社会のなかで不可視化された構造や歴史、見えない他者の姿や声を取り上げようとしているようだ。
■アーティストステートメント
語られてきた戦争の記憶がある。
けれど、それでもなお、沖縄の風景や、そこに残るものの手触りには、
言葉にならない感覚や、沈んだままの時間が静かに息づいている。
私は、それらに耳を澄ますようにして、作品をつくっている。
街の壁に残る銃痕、基地跡地に広がる空き地、
戦時中に使われた薬莢や、死者に手向けられた冥銭「うちかび」。
それらの素材に触れ、写真や版画として編みなおしながら、
記憶と現在が重なりあう場所を探っている。
それは記録でも再現でもない。
いまこの場所に生きる身体で、風景や素材にもう一度触れ直すこと。
忘れられた声や、語られなかった感情の痕跡に、そっと手をのばすような行為だ。
今回の作品では、街に残された弾痕のイメージをリトグラフとして刷り上げた。
素材として用いたのは、現在も米軍から放出されている銃弾の薬莢である。
土地に刻まれた傷を浮かび上がらせ、その痕跡を目立たせることで、
癒すのではなく、忘れずにまなざすための “かたち” を探っている。
戦争の記憶だけでなく、
そのなかを生きた人びとのまなざしや、日々の営みにも目を向けたい。
過去は過ぎ去ったものではなく、いまの風景のなかに、確かに沁み込んでいる。
この作品群は、明確な答えを示すためのものではない。
沖縄という場所に立ちながら、
私たちは何を感じ、何を引き継ぎ、何を手放していけるのか――
その問いを、ひとつの風景として差し出す試みである。
ギャラリーでは初の個展となる本展では、街の壁に残る銃痕、基地跡地に広がる空き地、戦後訓練に使われた薬莢や、死者に手向けられた冥銭「うちかび」など、寺田の出身地である沖縄にいまも残る戦争の記憶をたどりながら制作された写真と版画による作品を発表する。
本展は、Yumiko Chiba Associatesによる展覧会シリーズ「写真を問う」の一環として開催する。
- ■展覧会情報
寺田健人「聞こえないように、見えないように」
会期:2025年7月29日(火)〜9月20日(土)
時間:12:00〜19:00
休廊日:日曜日、月曜日、祝日
会場:Yumiko Chiba Associates
住所:東京都港区六本木6-4-1 六本木ヒルズ ハリウッドビューティープラザ 3F- ■トークイベント
寺田健人×山本浩貴(文化研究者、実践女子大学文学部美学美術史学科准教授)
2025年8月30日(土)16:00〜18:00(受付開始 15:45)
会場:Yumiko Chiba Associates
定員:15名 ※事前登録予約制
参加費:無料
■プロフィール
寺田健人(てらだ・けんと)
1991年沖縄県生まれ。写真を軸に、映像や立体など多様な手法を取り入れたインスタレーションによって制作を行う。人がどのようにして「性」や「生まれ」といった社会的な枠組みによって行動や思考を方向づけられていくのかに関心を持ち、「個人的なことは政治的なこと」というラディカル・フェミニズムの視点を足がかりに、そうした構造を問い直す手段として表現を行っている。現在、東京藝術大学 美術学部先端芸術表現科 助教、京都芸術大学通信教育部美術科写真コース 業務担当非常勤講師。
山本浩貴(やまもと・ひろき)
文化研究者。1986年千葉県生まれ。
一橋大学社会学部卒業後、ロンドン芸術大学にて修士号・博士号取得。香港理工大学ポストドクトラルフェロー、東京藝術大学大学院国際芸術 創造研究科助教、金沢美術工芸大学美術工芸学部美術科芸術学専攻講師を経て、2024年より実践女子大学文学部美学美術史学科准教授。単著に『現代美術史 欧米、日本、トランスナショナル』(中央公論新社、2019年)、『ポスト人新世の芸術』(美術出版社、2022年)、共著に『トランスナショナルなアジアにおけるメディアと文化 発散と収束』(ヘス・パク編、ラトガース大学出版、2020年)、『レイシズムを考える』(清原悠編、共和国、2021年)、『東アジアのソーシャリー・エンゲージド・パブリック・アート活動する空間、場所、コミュニティ』(メイキン・ワン編、ベーノン・プレス、2022年)、『新しいエコロジーとアート「まごつき期」としての人新世』(長谷川祐子編、以文社、2022年)などがある。監修書に『基礎から学べる現代アート』(亀井博司著、晶文社、2023年)、共編著に『この国(近代日本の芸術)「日本美術史」を脱帝国主義化する』(小田原のどかとの共編、月曜社、2023年)。
【関連リンク】
https://ycassociates.co.jp/exhibitions/2025/07/19/2770/
出展者 | 寺田健人 |
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会期 | 2025年7月29日(火)〜9月20日(土) |
会場名 | Yumiko Chiba Associates |
※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。
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