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top 本と展示写真集紹介浜昇写真集『津軽野』

浜昇写真集『津軽野』

2025/08/29
髙橋義隆

浜昇写真集『津軽野』がKula Booksより刊行された。
 
高度成長期の1970年代、津軽半島に暮らす人々や風景を撮影した浜昇は、約50年の時を経て2020年代に再び津軽を訪れた。そこで浜が目にしたのは、およそ半世紀の間に津軽野に起こった目まぐるしい時代の変化の跡だった。本書は、廃屋の目立つ現在の津軽野の風景を皮切りに、70年代に同地で撮影された、土と海と死者たちと共に暮らす人々、半島に広がる峻厳な風景、そして短い夏のひとときに行われる夏祭りの光景を記録した写真、全178点で構成されている。

 

  • 土地から引き離された多くの人々、打ち捨てられた数々の土地を見つめてきた浜の目に、津軽半島は広大な空地になろうとしているように映ったのではないか。
    「空地」を真にそう呼ぶ資格があるのは、空地以前のその場所を知る者だけだ。津軽での最初の撮影からおおよそ半世紀の間に起こった目まぐるしい時代の変化が、70年代に同地を目撃し、その姿をフィルムに収めた者として、浜にこの写真集を世に出すよう迫った。
高橋しげみ「津軽野に見る夢」(本書所収)

 

©Noboru Hama

  • 津軽野には、歌枕として囲い込まれることを拒むほどの痛切な自然の厳しさがあり、ふれると泣けてくるような温かい情感がある。浜昇は1970年代にその地に通い、近年再訪した。よき人とともにあった昔日の風景はよそよそしく、あるいは潰えた。取りもどすことのできない時の痛みを携え、写真家は記憶を代補する務めを全うする。再訪は時に苦い。だが、郷愁に真に味読される価値があるとすれば、痛苦が交じればこそ、なのである。
倉石信乃(詩人・批評家、明治大学教授)

 

©Noboru Hama

 

  • 腰の曲がった婆婆を見ることもなくなった21世紀半ばに、浜昇が写真にとどめた1970年代の津軽が浮上する。つかの間の〈地方〉。故郷を置き去りにしてしまった後ろめたさを抱えこみながら、今日も、ホーハイ、ホーハイ、聞こえる気がする。
山内明美(歴史社会学・社会思想史、宮城教育大学准教授)

 

©Noboru Hama

 

■プロフィール
浜 昇(はま・のぼる)
1946年東京生まれ。1975年、ワークショップ東松照明教室に参加。1976年、ギャラリー「PUT」を設立。1987年、出版社「写真公園林」を設立。個展・グループ展多数。写真集に、『フロム スクラッチ』(写真公園林、1990年)のほか、バブル景気に沸く1989年前後3年にわたり、地上げなどで虫食い状態となった東京の「空地」を記録した写真953点を収めた『VACANT LAND 1989』(photographers’ gallery、2007年)、70-90年代の沖縄を記録した『沖縄という名』(全3巻、ソリレス書店、2017年)、1989年の昭和天皇国葬当日とその前後の東京を記録した『斯ク、昭和ハ去レリ』(ソリレス書店、2019年)などがある。2007年に第20回写真の会賞、2017年にフォトシティさがみはら「さがみはら写真賞」を受賞。

 

  • 浜昇『津軽野』
  • 発行:Kula Books
    発売:photographers’ gallery
  • 仕様:B5変型判、上製、モノクロ・カラー、200ページ
    寄稿:高橋しげみ(青森県立美術館学芸員)
    造本:須山悠里
    印刷・製本:株式会社山田写真製版所
    定価:本体6,300円+税


【関連リンク】
https://pg-web.net/shop/pg-kula/tsugaruno/

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